もう我々は18歳の単純さでは生きてゆけないんだ

【シークエンス】

 

わたしたち、もういい加減大人にならなきゃね

どうしたの? なにかあった?

だって、きみもわたしももうすぐ27歳になるんだよ。30歳までカウントダウンだよ

そうやって言葉にされると背筋が寒くなるよ

もう我々は18歳の単純さでは生きてゆけないんだ

うん、単純さの上に20パーセントくらいの複雑さを纏っている気はするよ

黒船がやって来たとき、吉田松陰は23歳だったし、坂本龍馬は18歳だったんだよ

時代のうねりに若い血が沸いたんだろうね

ん? 何を冷静に言ってるの、わたしたちは26年も生きてきて何を成したの?

取り立てて、ひとに言えるようなことは成してないよ

それでいいのか、若者よ!

え、誰?

きみの誠はなんですか?

ぼくの誠……なんだろう?

きみに「至誠」という文字を書いて贈るよ、紙と硯を用意してくれたまえ

くれたまえって、ねぇ、誰なの?

わたしは吉田寅次郎といいます

ああ、やっぱり……『花燃ゆ』ずっと観てるもんね

久坂くん、きみの誠はなんですか?

え、ぼくなんかが久坂玄瑞でいいのかな

さあ、久坂くん、きみの誠を聞かせてくれ

え、えーと、ぼくの誠は……

きみの誠は……?

ぼくの誠は……きみへの思いかな

ぼくへの思い? それはどんな思いですか?

え、それは、温かな気持ちだよ

そうですか、それはどれくらい温かいのでしょうか、日向の猫ほどでしょうか、それとも風呂の湯くらいでしょうか

えーと、イメージとしては日向の猫かな

そうですか、きみの誠は日向の猫ほどの温かさのぼくへの思いなのですね

う、うん、なのです

…………あ~あ、つまらん、つまらんよ、久坂!

え、今度は誰なの?

なあ久坂、愛だの恋だの言ってないで、酒でも飲めよ

ここはスタバだからアルコールはないよ

いいから飲め! この高杉の酒が飲めんか

高杉晋作……

おもしろき こともなき世に おもしろく

…………わかったよ、大人になることにするよ、何かを成す大人にね、だからそろそろ本来のきみに戻ってくれないかな?

ほんとうにわかった? もうわたしたちは18歳の単純さでは生きてゆけないんだよ

わかったよ、十分にわかった、悲しすぎるくらいわかった

じゃあ、わたしは先に行くね

え、どこに行くの?

京で戦が始まるんだよ、久坂さん

え、誰なの?

…………

ねぇ、誰なの?

 

tamito

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#小説 #いつものふたり

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