タイナーのピアノが弾けて

【詩】


もうダメだと記す見知らぬ人のつぶやきに

苦しみひとつ拾いあげてポケットにしまう

通りすがりのひとりにすぎない僕らの内に

少しずつ少しずつ雪のように降り積もって

言葉はいつか感情の色を真白に覆いつくす


色のない感情で古びた喫茶店の隅に腰掛け

モードジャズを聴き酸味の強い珈琲を飲む

雪原のような感情に地の面がまばらに現れ

自らの心の在り様にようやく気づかされて

慌ててポケットを探るがそこには何もない


タイナーのピアノが弾け空白を埋めてゆく


tamito

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#詩

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