風をきる
【詩】
真夜中の折り返し地点を過ぎて
僕は先頭集団の後方をひとり
こぼれ落ちそうになりながら走っている
君の形のよい喉を鳴らす赤いワインが
食道から胃へと流れおちて
僕は少しだけストライドを広げて
薄紫色のゼッケン27の背中に迫る
スリップストリームでしばらく呼吸を整え
ひとり、もうひとりと一気に抜きさる
集団のなかでぶつからないよう気をつけながら
君がかきあげた髪の間に光るピアスを思う
左手には黒い海が迫り波の音だけが聞こえる
潮の香りが集中力を削ぎ君の横顔が暗闇に浮かぶ
前を走るランナーの数を確認して時計を見る
夜明けまではまだ二時間
陽が昇るまでにトップが獲れるだろうか
僕のくたびれた脚や肺はもつだろうか
でも今日のレースは僕のレースだ
だから夜が明けるまでにトップを獲る
いまはまだ届かないけど
あきらめずにひとりひとり抜きさって
夜が明けるまでに先頭で風をきる
tamito
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