濃紺の九月

【シークエンス】


ねえ、夢ってある?

うん、いつか宇宙空間に行ってみたいと思ってる。もし行けるなら、例え事故が起きて戻れなくなっても後悔はしないと思う。

そうなんだ。男の人って現実を超えて勝手に行ってしまうよね。もし帰ってこれなかったら、わたしと二度と会えないんだよ。それでも行きたいの?

うん、そうなってもやっぱり行きたい。地球の引力から抜け出して、宇宙に身を置いてみたいんだ。

そう。わたしはあなたと一緒に一つずつ歳をとっていきたい。お互いに一つずつ成長していって、一つずつ老いていって、長く共有してきた時間を振り返りながら死んでいきたい。

ぼくだってそうしたいよ。

でも帰ってこれなくても宇宙に行きたいんでしょ。

それとこれとは別物なんだ。

わたしは、宇宙なんかに行かない人がいいな。


僕たちは互いに十五歳で、放課後に公園のブランコに座っていた。

2014年なんて年は気の遠くなるほどの未来で、日々いろんなものにぶつかっては対処したり吸収したりしていた。

彼女はぼくより少しだけ大人で現実が見えていた。

ぼくは彼女から見たら現実の見えない子供だった。

ぼくらは互いに求めあい言葉を重ねたが、彼女にとって「宇宙に行きたい」と語るぼくはあまりに幼すぎたのか、それとも本質的な生き方の違いに気づいたのか、それからしばらくの後にぼくのもとから離れていった。

宇宙まで届きそうな濃紺の空が目に染みた九月。


tamito

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