あの角をまがったら
【詩】
あの角をまがったら
長い針が12時を指したら
踏ん切りのつかないときひとは
きっかけを何かに求め
そしてたいていの場合は機を逸する
世界には逸せられた機会が集められた部屋があって
ぼくはそこの番人をしている
一度逸せられた機会はほとんどが死に体で
ほんのわずかな気力さえ持ち合わせていない
ただごく稀に
死んだふりをしながら瞳の奥に光を宿し
この部屋から抜け出すチャンスを狙ってる
そんな輩もいる
ぼくはそんなやつを見つけると
部屋の鍵をわざとはずしたまま外へ出て
彼女との意味のない長電話をする
その隙にそいつは重いドアをそっと開けて
僕の後ろ姿を横目で見つつ
そろりそろりとこの部屋を抜け出してゆく
ぼくは背中にそいつの気配を感じなくなると彼女に言う
「じゃあ、そろそろ仕事に戻るよ」
「うん、わかった。・・・彼、彼女かな。今度こそ機を逸しなければいいね」
「うん、そうだね」
ぼくは電話を切ってやつが逃げて行った方角に目をやり
「がんばれよ」と心のなかで呟く
tamito
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