追憶
【詩】
人待ちのホテルのラウンジ
眺める中庭に咲くアジサイ
日々の慌ただしさから抜けだし
街の喧騒からのがれて
思いがけず穏やかなひとときが
降る雨をやさしくさせる
雨粒は記憶に似ている
または記憶が雨粒に似ているのか
擦りきれて渇いた心に滲みこみ
井戸の底から古い画像を呼び起こす
記憶のなかの光景はいつも
8ミリフィルムのようにざらりと粗い
水を注ぎ足しにくるウェイターが
父の若いころに少しにていて
いまごろ彼を好きだったことに気づき
煙突からまっすぐに天へと昇る煙りを眺める
冷めた珈琲にうつる男が妙におさない表情で
あなたは誰ですか、と僕に問いかける
僕は誰を待っているのか
向かいの席に座る人は誰もいない
tamito
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