ふつうであること
【詩】
街が騒がしく気持ち流されて
たどり着くと誰もいない大きな通り
静かなビルの底で信号が点滅する
風だけが季節を報せてすべるように行く
みんなひかりを求めてどこかへ向かった
首を巡らせても猫いっぴき見当たらない
「太陽が沈む方だよ」と風がいう
でも陽は高くどちらに沈むかわからない
そうだまだ今日は何も食べていないと
無人のコンビニでパンと水を手にしてお金を置く
近くのビルの階段を上り屋上へ出る
空がまるごと見えて少しホッとする
パンを胃袋に収めてベンチに深く腰かける
太陽が眩しくて目をつむる
意識がどこかへ引きずりこまれる
ダメだよダメだよと抗うと遠くから雲がいう
「大丈夫だからとりあえず身を任せて」
なにかやるべきことがあったのに
意識の最後でそうつぶやきながら
ぷつんと切れて無防備に全身の力を抜く
風がそよと頬を撫でて通りすぎる
tamito
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