『リセット』ほか、シークエンス

【シークエンス】


『気圧』


朝から気圧の影響で体調が優れず

彼は重い足どりで階段を昇り降りし

ターミナル駅を地下鉄へと乗り換える

正面から歩き来るコートの肩が強く当たり

後方に舌打ちの音が響く

重い頭のなかに残る異物のよなそれが

遠ざかるコートを切り裂かせる

(こんな日もある)と彼は思い

地下鉄のつり革に安堵する


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『王家の墓』


屋上にあがると

西の空はほんのり赤く染まり

東の空には白い月がでていた

付近のビルの避雷針が数本

この屋上庭園の塀越しに見え

青空に向かってキレイに伸びている

(まるで古代の王家の墓か何かのようだ)

彼女は買ったばかりの珈琲の湯気に包まれて

つかのま現実から目を背けた


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『リセット』


いつの間にか時計の針が止まっていた

携帯電話で時間を確認する習慣がついて

この頃は腕時計を見る機会がめっきり減った

彼は時計を左手首から外し軽く振ってみたが

やはり時を刻むチッチッという音は戻らない

時間は午前7時28分で完全に止まっている


時間は完全に止まっている


彼はこの数時間がリセットされた気持ちになった


どこか

世界のどこかに巨大な時計があって

我々は常に

動かされたりリセットされたりしている


彼は時計を腕に戻して曇り空を見上げた


tamito


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