海へ

【詩】


きみの感受性が列車の窓

流れゆく景色の合間に見える

湿った早朝の夏草にも似て

ゆだねれば潤い溢れる


きみが語る景色が色めき立つ

古民家の垣根は緑なお濃く

林のなか佇む祠の紅艶やかに

言葉が色彩と明度を際だたせる


きみが放つ熱量がときに変化する

緩急や好悪で多寡が変わり

強弱や哀楽で質量が変わる

隣に座るぼくはきみに酔う


どこかの開いた窓から吹き込む風が

きみの黒髪ゆらし甘い匂いを放つ

列車は長いカーブを曲がりガタゴトゆれる

暗いトンネルの先に群青の空が見える


「もうすぐ着くね」と言うきみの

発した光がぼくを包み込んで

車内放送が海に着くことを知らせる

トンネルを抜けると風が変わった


tamito

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#詩

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