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平凡な家庭をもちたい
誰にでも、あれ、ここなつかしいと思う景色や風景があると思う。わたしの場合は、花街だ。日本舞踊をすこしかじった時に、長唄の歌詞に「神田、浅草、深川」とかいうフレーズが出てくるとなぜか、血が騒ぐというか、心がくうっとなる。『祇園小唄』を踊っても上がらないが、『お江戸日本橋』を踊ったら、明らかに上がる。東京の芸者衆なら誰でも踊れるというお座敷の定番『奴さん』を初めて見たときは、「あー、これこれ!!」と開眼したほどテンション爆上がった。あれは死ぬまでに必ず習得したいおどりのひとつだ。十年近く前に、『女と味噌汁』(1965年〜1980年に放送された)という新宿の花柳界を舞台にしたドラマの再放送にハマった。当時、3歳の息子と毎日わくわくして観ていた。同居していた義母が「あんたあ、それ芸者さんの話やで」とまるでいかがわしいものを見るようなかんじでしげしげと見ていたのを思い出す。主人公の室戸千佳子(源氏名てまり/池上淳子)はお座敷が終わると、ライトバンで祖母から教わったお味噌汁とおにぎりの店を開くのだ。ちょっとおバカキャラの妹芸者の小桃(長山藍子)がとても愛嬌があり、息子がにこにこ笑いながら「こももちゃんかわいいねえ」と言っていたのを思い出す。はなのやの女将役の山岡久乃も気風がよくていい演技だった。ただ、男たちと花柳界を取り巻く人間模様だけでなく、家庭の味の象徴「味噌汁」を出す店を持ちたいと夢見るてまりの、女としての人生観がすきだった。それは、いずれは平凡な家庭を持ちたい、というおんなごころで、花柳界に身を投じたおんなの気持ちがなぜかすごくよくわかる、と思いながらずっと観ていたのである。
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浅草の最高齢芸者だった浅草ゆう子さんの奴さん、素敵!粋!
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