読むものに影響される

凍り付いていく指をそっと、壁から引きはがして歩き始める。ぺたんぺたんと床をたたく足音は石壁の建物の中に響いていく。回廊沿いに大きなガラスをはめ込まれた窓が続いていて、外からの光が漏れてくるはずなのだけれど、床の石畳はぼんやりとしか見えてこない。外は、まだ夜?

ぺたぺたと聞こえるのは、私が裸足であるいているから。目覚めないうちから寝室を抜け出したものかと思う。たまに、こういうことがある。目が覚めると庭の芝生の上に座っていたり、塀の上から外へ身を乗り出していたり。今朝は、寒いのに裸足のまま抜け出してしまっていたようだ。

しゅうしゅうと雪が外の壁をこする。中まで響いてくるから、かなりの風が雪を舞い上げて暴れている朝。今日のおひさまをみることはできないかもしれない。

足首から膝へと寒さが這い上がる。気づかぬうちに足を止めていたようだ。おひさまの心配するより、自分の足が凍ってしまうのを心配するほうが先だ。寝室へ戻らなければ。
……でも、どうやって?

*

そうして目が覚めた朝。いつもより寝坊したらしく、投稿していく小学生の声が聞こえてくる。窓をあけると冷蔵庫を開けたような冷たさが部屋の中に入ってくる。

夢の舞台が石づくりの建築物の内側で、冬のどまんなかだったのは、中世ヨーロッパの都市構造を調べていたからなのか、昨夜読んだ小説の舞台が冬だったからなのか……読むものにかなり影響されているのな、とおかしくなって笑った。

笑い声と一緒に体の中から夜が抜けた。そして、今日が始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?