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しあわせの余韻を残す

美味しいものをたくさん食べて、その次の朝。いつもより、ごきげんに目が覚める。あかるくなった部屋で、ふっくら羽根ぶとんにくるまりながら、「ゆうべは美味しかったな」と思い出す。

もぐもぐ。口が動く。
(口には、何も入っていないけれど)

もぐもぐ。ほわんと、しあわせな気分を引きずったまま、寝起きの身体を引きずって体重計の上へ……

びっくりして頭くっきり、目が覚めた。いつもより1kg多い(あ、控えめな数字を書いておきます。ほんとうは2kg増えた、ひとばんで)。

あれだけ、美味しいものを食べたのだから、当たり前か。ひとばん経っているのに、ほんのりお腹がふくらんで見える気がする。お腹もまだ重め、かな。

でも。体重計の数字を信じたくない。ときどき見ている夢のアレ。現実の続きみたいなヤツじゃないよね。

顔をしゃんと見て確認しようかと、身体を傾けて鏡をのぞき込む。

鏡の中で困り顔をしているわたしは、とろんと重い瞼を押し上げながら、ちょっとむくんだ顔。でも、たのしそうな表情が見え隠れ。

たのしそうなわたしに手を伸ばし、そっと触れてみる。ひんやり、鏡のつるんとした感触が指につたわる。
……うん。
鏡が冷たいとわかるし、中のわたしと目が合うから、体重が増えてしまっているのも夢じゃない。

でも、ほんとに、鏡のわたしはたのしそう。
よほど昨夜が、美味しくて嬉しい夜だったに違いない。

久しぶりに、いつもよりうんと贅沢なコース料理を食べる。
久しぶりに、仲のちかい友人たちと会う。
久しぶりに、手加減もなにもなく好きなものについて話す。

いつも年末に「忘年会」と称して集まる、あの友人たちとの時間。せめて、その夜だけはぜいたくごはんを食べよう、たのしく過ごそうと決めて、1年分のはなしを持ち寄った夜。

1年前も同じように集まって、同じように美味しいものを食べながら、たのしく話したはずなのに。今年は、いつも以上にしあわせな気持ちが長く残っているように思う。
翌朝にも、まだ。もぐもぐと口が動いてにんまりするくらい、しあわせ。

そして、わかった。「美味しい」には、一緒に食べた人との記憶がふくまれる。しあわせは、ひとりだけのものでなく、誰かとの記憶が混じりこんでくるものらしい。

食べものそのものが「美味しい」だけでは、「美味しい」は続かない。
しあわせも、ひとりだけではみつけづらいものなのかもしれない。


来年も、またみんなと会えるだろうか。「このいちねん、頑張ったね」と笑いながら、ちょっと贅沢ごはんを食べているだろうか。

思ったより増えていた体重にショックを受けてはみたものの、嬉しそうなわたしと鏡の中であえて、まあいいかと思いなおす。昨夜、一緒にわらっていた友人たちの顔を思い出しながら、また口がもぐもぐと動いた。

あのコース料理を食べられるくらい、来年もまた頑張ろう。
友人たちと笑って会えるように、来年もまた元気に過ごそう。

さすがに、今朝の朝ごはんは食べなくていい。しあわせの余韻を口にのこしたまま、ほわっとご機嫌。

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昨夜のおいしいもの達(一部)

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ごちそうさまでした。

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