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頼まれてもないのに。その44(令和4年大相撲秋場所を振り返る)


 37歳10か月!
 なんでこんなに元気なの? 序盤、中盤、終盤といっさいの息切れなし。それどころか終盤さらにギアがあがり、加速していく。
 玉鷲、2回目の優勝。おめでとうございます。

 前回は関脇で13勝2敗、今回は平幕で13勝2敗。前回は3年前になるんですね。大きなケガもせず、筋肉のハリもとくに衰えず、それでもここ数場所に限っていえば後半戦の失速が目立ち、さすがの鉄人玉鷲も寄る年波には勝てないか、と心の準備もそろそろと思い始めていた矢先。
 まったくの見当違いでした。お恥ずかしい限り。
 いやもしかしたらご本人にもその自覚があったからこそあらためて調整かけてきたのかもしれません。
 場所中にも呟いたんですが玉鷲って15日間フルスロットルで相撲取るんですよね。つまり比較対象を2名頭に浮かべながらこれ書いてたんですけれど、こざかしい人であれば15日間の力の配分を調整することで自らの体力不足を乗り切ろうとするわけです。
 でも玉鷲はそれやんない。終盤まで体力持たず力が出しきれなくなったとしても前半すっとばすのをやめようとしない。
 たぶん本当に相撲が好きな人なんだと思います。土俵に上がるのが楽しくて仕方がなさそう。そんなふうに思わせてくれる力士なかなかいません。

 あ、もう一人いる。
 佐田の海35歳。この力士もここへきて急にぐぐっと強くなってきました。数年前までは幕内下位で取ってるお相撲さんのイメージが定着してたんですが。さすがに彼は玉鷲ほど楽しさが体からあふれ出る感じではないけれど、実に溌溂としてるんですよね。土俵が力強く、すがすがしい。

 今場所はなにかと実りの土俵でありまして、
 まずはこの二人が印象に残った秋場所でした。

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 翠富士に錦富士。とくに錦富士が大成長。
 翠富士なんて今場所いきなり10枚も番付があがってしまって、体の大きさもあいまってさすがにきついかなあと心配していましたが、なんのなんの、全然問題なくわたりあえてました。星勘定としては7勝8敗に終わってしまいましたけど楽しみな上位力士がまた一人増えそうです。
 錦富士は十両でくすぶっていた印象が強い力士。ああいう低迷状態はここが限界ですってことじゃなく、ただいま修行中、これが終われば力をつけてはばたきますよってことかもしれないってことです(そこで力尽きる人もいるよねとかそういう意地悪なことはいわない)。大関貴景勝との一戦は負けはしたものの大いにしびれました。

 十両で長らくくすぶってたよなあといえば若元春。この人もなかなか上がってきませんでしたが、ここ数場所の活躍ぶりといったらもう。
 なかなか番付があがらないのは低迷しているのはありません、今のうちに上で勝つための力を育てているのです。若元春も来場所は上位番付。やだもう来場所面白すぎる。

 負け越しちゃったけど平戸海。この人も幕内の土俵で見たい人。

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 高安。
 支度部屋での玉鷲との顔合わせや三賞の記念撮影では、もはやなにかを超越したような、菩薩というかお地蔵さんというか、霧の晴れたすっきりした表情だったのが印象的でした。
 もちろん本心はわかりかねますけれどここまで繰り返されると、悔しくて悔しくて仕方がないという感じではなくなってくるのかな。
 高安も逸ノ城と同じく腰が悪いという話はテレビの解説者レベルで入ってくる情報ですから知らない人はいないと思います。一場所休んだ逸ノ城が先場所優勝したにも関わらず2か月後の今場所は残念な結果に終わったことからも腰って相当きついんだろうなと察します。高安も条件としては先場所の逸ノ城と同じ、一場所まるまる休んでの本場所となりました。
 前回優勝がかかった場所も、まったく同じでした。
 つくづく面白い(本人にとってはたまったもんじゃないでしょうが)相撲道を歩んでいらっしゃるお相撲さんだと思います。
 高安は高安でこの人にしかたどり着けないものを見る人なのかも。
 それでもいつか必ず優勝すると思うのですけどね。優勝に全く無縁なまま終わるともちょっと思えない実力者です。腰次第なのかしら。

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 大関貴景勝については別エントリでちょっと批判ぎみに書いた一番もありましたけれど、観客に余計な心配かけずちゃんと自力で勝ち越せるところが実に素晴らしい。首やっちゃって以降、万全で取れない部分を気迫でカバーするという無茶なことをもうずっとやり続けています。
 そもそもお相撲さんなんて鍛え方もクレイジー、体大きくするための食べっぷりもクレイジー、何もかもがクレイジーな存在なんだから身内からすれば驚くことでもなんでもないのかもしれませんが、こちらとしては生き様そのものを見せられてる感じでして、貴景勝がんばれ以外の言葉がみつからないです。

 横綱照ノ富士も膝が相当悪いようで、休場前日の取組なんてなんと高安にけ返し未遂ですよ。いくらダメもとでもそこまでするかと。そしてそこまでしでてもまだ勝ちに手を伸ばすのかと。
 あの一番は高安の必死さとも相まり、私の中で今場所いち記憶に残った取組となりました。
 こんなにぼろぼろの人だって、勝つためにはここまでするんだよ。
 勝ちたいって最後の最後まで頑張ってるんだよ。
 あの一番はね、高安も、照ノ富士も、どっちもかっこよかったなあ。

 膝はふたたび手術をするかもしれないとの報道。だとすると長期のお休みに入ってしまいますね。私は待ちますよ。待ってでも横綱照ノ富士の相撲をまた見たいです。

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 若隆景、初日からの3連敗はなんだったんでしょうね。
 翔猿はひさびさにわちゃわちゃと効果的な攻めの歯車が噛み合った場所でした。最後のほうは蹴猿になってましたね。これまた厄介な技を覚えてくれたものです。
 霧馬山はもっとできる子。

 どうしよう、幕内上位に続々と役者が揃ってきてしまった。
 群雄割拠はまだまだ続くんじゃないでしょうか。

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 御嶽海が大関陥落してしまいました。
 体調のいい時は強い、でもそうでなくなったときどうか。ダメな自分のコンディションにもちゃんと適応できるか。
 早々に見舞われたこの課題を乗り越えられなかったんだなあと。
 他の力士たちも通ってきた道。上からなのは重々承知ですけれど、根本的に何かを変えないと克服できないと思います。だって乗り越えてる力士が現にいるんだもの。彼らとどこが違うのか。
 そのケガがもう二度と前のように戻らない類のものならどうするのか。
 私を始め相撲ファンたちは皆、この絶望と地獄から這い上がり、ケガと共存しながら復活してきたお相撲さんたちをたくさん見てきました。たくさん応援してきました。
 彼らの折れない超人的な心に、応援しているこちら側が勇気づけられ励まされるくらいに。
 人ってそんなに変われないもんですが、なぜかお相撲さんってのは変わります。そういう人が実に多い。変わらないまま消えていく人ももちろん多いけれど。
 御嶽海という才能のかたまりは果たしてどちらになるんだろうか。
 ちょっと怖いです。

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 実りの秋場所。
 三役と平幕で賜杯を奪い合う場所はまだまだ続きそう。いましばらくはそういう楽しみ方をするしかありません。
 誰がお先に一つ突き抜けるかな。朝乃山が戻ってくるのは来年の春か夏か、それまで群雄割拠のままですかね。朝乃山が戻ってくるまでに幕内上位の常連さんたち(予定も含む)がどこまで力をつけられるか。
 琴ノ若だっていつ優勝してもおかしくない。彼は目の奥がいい。
 十両は十両で数年後の幕内上位を予感させるお肌つやつやの若手たちがたくさん。

 来場所の九州も、盛り上がる見ごたえ多い場所になりますように。


武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。