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ここで飲むしあわせ:妄想


行きつけのお店を持つ大人は素敵です。

ワインの似合うお店。イタリアン系の前菜があると嬉しい。とっておきのモルトウイスキーが揃っているバー。ありきたりだけど暗めの照明に古めのジャズが流れていてほしい。地方の隠れた銘柄をそっとおすすめしてくれる小さな居酒屋さん。こんがり焼いたお味噌でちびちび。

ああ。想像しているだけで楽しくなってきます。

一緒に飲む人もだいじです。心にずかずか入りこんでこない人。明るい振る舞いの片隅に恥じらいを持ちあわせている人。なによりお酒と食をこよなく愛してくれている人。

ここぞという日の高いお酒もいいけれど、ふらりと立ち寄りお手頃に楽しめる、気取らず背伸びしないお酒をどれだけ知っているか、これも重要。

ひっくり返したビールケースに腰かけて、缶詰ひとつをぱかりと開けて、梅干しつぶして焼酎お湯割りなんてのも、時に悪くありません。

酒は静かであれ。騒がしさも肴の一つ。喧嘩や不機嫌、愚痴は勘弁。たゆたうように、だらだらと、おだやかに。時には気取り、時には怠惰に。だけど最低限、襟元だけは正して。

そんな架空の数々を脳裏に描きながらホップの効いた缶ビールをぷしゅりとやります。カマンベールチーズがあればもう上々。

行きつけのお店を持つ大人は素敵です。いまでもそれは変わらない憧れ。

だけどけっきょく呑んべの本質はただひとつ、おきにのお酒と肴がそろう場所ならいつだって、いまいるところがおとっときの場所なのです。


#ここで飲むしあわせ

武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。