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頼まれてもないのに。その3(『巻き毛のリケ』の思い出)

先日『読書する人だけがたどり着ける場所』(齋藤孝 SB新書 2019)を読みまして、人格を深める効能としての読書について、ありきたりながら思いを巡らせたわけです。

人格の深み、それは実際に会話を重ねるとわかります。前提として知識があることも大事なのですが、必然性を伴った会話の広がり(支離滅裂だったり自分の話ばかりなのはだめです)があるか、既存の知識体系が新たな知見によって揺さぶられるのをむしろ楽しめるくらいの強靭な知性があるか、そしてこれが私には何よりも重要な気がするのですが、会話の根底に「暖かい血」が通っているか、つまり会話の前提として人として大切な信念、ヒューマニズムとでもいうのでしょうか、そういったものが備わっているか、そういったものが人格の深みとして私には感じられているように思います。

そういうことをですね、つらつらと思い連ねているうちに、子どもの頃に読んだある童話を思い出したのです。

『巻き毛のリケ』

シャルル・ペローによって編まれた童話集の中にあるお話の一つです。これが子ども心になかなか衝撃的なお話でしてね、以下雑々とあらすじをば。

ある国にブサイクな王子(リケ)が生まれました。でも仙女が言うには「この子は頭がいいから皆に好かれるようになりますよ。そしてこの子は、好きになった子を自分と同じくらい頭の良い子にすることができますよ」と。で、実際リケはものすごく話が面白く、皆の人気者になっていくのです。

さてこれまた違う国にとっても美人な王女が生まれました。ところが仙女が言うには「この子はバカですよ」。次に生まれた妹はブサイクでしたが仙女曰く「この子は頭がいいですよ」。果たして成長した姉王女、とても美人だけれど全然会話にならないので皆から次第に相手にされなくなり、ブサイクだけど会話していて楽しい妹王女は皆から好かれていきました。

ただしこの姉王女、リケと同じく不思議な力を授けられており、好きになった子を自分と同じくらい美しい容姿にすることができるのです。

でまあお察しの通り、以下の展開はこんな感じ。

リケ、姉王女を好きになる→リケの不思議な力で姉王女、賢くなる→まあいろいろあって、姉王女、リケをハンサムにする→結婚

めでたしめでたし♪

……って、おい!!!!!


こんなにツッコミどころ満載の童話あります?


1 子ども心に恐怖だったこと。

どんなに美人でもバカだったら人に相手にされない。人から嫌われる。バカこわい、バカになりたくない、でも、そう簡単にバカって克服できるもの?努力次第で克服できるようなバカは、そもそもバカではないのでは。

今ならこの恐怖の理由がわかります。うん、それって「その人がバカなら嫌われて当然」ってことよね。なんというか、あのさ、「嫌い」の正当化というか、えっと……これ以上深めるのは今はやめますが、つまり、これ、さらっと流していいことじゃないぞ。


2 子ども心に「納得いかねえ!」と思ったこと。

ブサイクなリケが、ブサイクなまま姫に受け入れられるのではなく、結局ハンサムになる……ええ、結局は顔ですか、はい、そうですか。そうね中身が同じなら、そりゃブサイクよりハンサムのほうがいいですよねそうですね。

ありのままを受け入れあった話ではないんですよね、リケにしても姉王女にしても。考えようによってはリケはブサイクを否定されてるわけで、姉王女はバカを否定されてる。それらを修正し合ってはじめてハッピーエンドを迎えられる。

これけっこう残酷なことじゃありませんか?

もちろん異論はあるはずです。書かれているとおりに解釈するのではなく、「愛の力が二人に足りないものを補い合ったのだ!」と補完して読めばいいだけの話でしょうと、というよりそのように読むべき童話でしょと。うーん、でもさ、その解釈で読むとしても、そこまでして美談に仕立てていいものかねえこれ。


3 子ども心にかわいそうだと思ったこと。

妹王女どこいった。勝手にブス設定されといてフェードアウトですか。なにこれ、妹かわいそう。どういうこと、マジで。


…………何が言いたかったかといいますと。

人格の豊かさとか頭の良さって大事だし、絶対的なレベルで魅力なんだけれども、自分に対しても他人に対しても頭の良さばかり追求すると「そうでない人」「そうなれない人」をおのずと軽視しだすというか、あの人つまんないからはじいちゃっても別にいいよね、みたいになりかねないという弊害もあるよなとか……つっても結局、人は見目かたちでわりと決まっちゃうよねとか、なんかこう……へりくつみたいなところに思考が陥っちゃったので、この話はこれでおしまい。


(※こんな書き方してますけど『巻き毛のリケ』は名作童話ですんで、興味を持たれた方はぜひとも元ネタにあたってくださいまし(´ω`A) )

武者修行中です。皆様に面白く読んでいただけるような読み物をめざしてがんばります。