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HANASHINONETA(噺のネタ)

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噺家・玉屋柳勢( タマヤ・リュウセイ )が落語の「演目」毎に、稽古の裏話やエピソード、解説を。
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#寄席

[噺のネタ]19『家見舞』(扇遊師匠のお稽古で…)

「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し 口先ばかりで腸(はらわた)はなし」 そんな枕で始まるこの噺。 どんな粋な落語なのかなぁ、と期待して聞いてみると… 全然粋じゃないという。 なにしろ別名が『肥瓶』こいがめ。 そう、今やめったにお目に掛かれない(アタシも見たことない)ボットン便所のお噺です。 アタシの前座の頃…18年前には寄席でよく掛かるネタでした。 それこそ2日に1回は出たんじゃないでしょうか。 看板の師匠だけでも、さん喬師、雲助師、権太楼師、一朝師、扇遊師、喬太郎

[噺のネタ]13『四段目』(桃月庵白酒師匠から)

卒論は歌舞伎『助六から観る歌舞伎の歴史』。 歌舞伎を好きになったきっかけは大学1年の秋。国立劇場で『三人吉三』の通し狂言を観たこと。それからは幕見席を使ってよく観劇してました。 好きな役者は中村富十郎さんと坂東三津五郎さん。 二人ともお亡くなりになってしまいましたが(泣) 噺家になってからは、圓太郎師匠に「イヤホンガイド代わりに」(笑)よく歌舞伎座にお誘い頂いておりまして…ありがたい限りです。 相撲と芝居の噺については「本当に好きな者だけがやればいいんだ」という考えの

[噺のネタ]7『大工調べ』(師匠・市馬からでなく…)~基本テクニックとサゲ

さてさて、『大工調べ』については「啖呵」「下げ」についてを。 このネタの一番の見せ場は棟梁の啖呵。 ただ啖呵といっても早く喋るのはNG。 というのは、ここの啖呵は、この後で与太郎が棟梁の真似をして啖呵を切ろうとして上手くできなくて笑いをとる、その仕込みでもあるからです。 『子ほめ』『牛ほめ』でお馴染みのオウム返しの手法です。 このオウム返しの仕込みは、お客様の頭に残るようゆっくり強調して喋るのが基本テクニック。 でも啖呵がゆっくりでは締まりませんし、見せ場にはなりま

[噺のネタ]5『つる』(扇橋師匠と文朝師匠に憧れて)

「これは文七や芝浜をやりこなした達人が初めて手を出して良い、最終奥義のようなネタに違いない。噺家になったら、いつかやってみたい。」 入門前にそんな憧れを抱いていた『つる』。 ですが… ……前座噺だった(汗) この噺を初めて聞いたのは、まだ私が学生だった頃、場所は末広亭。入船亭扇橋師匠でした。とにかく初めて聞いたこの噺のオモシロイのなんの。 -なぜ首長鳥が鶴になったか、それは雄の首長鳥がツーと飛んで来て、そのあと雌の首長鳥がルーと飛んで来たから- 先生のしょうもない

[噺のネタ]番外編 量と質、どちらが大事か?(噺家の「持ちネタ」について)

今回は番外編で「持ちネタ」について。 噺家が「持ちネタ」という言い方をする時は二種類あります。 広義には「覚えたことのある噺」のこと。稽古をつけて頂いたけれど、高座に掛けたことはないネタも含めます。 せっかく覚えたのに何故高座に掛けないんだ、と思われるかもしれませんが、いくつか理由があります。 ①高座に掛けずとも絶対にウケないのが自分で痛い程わかる ②高座に掛けるのが嫌になるくらい出来ない箇所(仕草だったり人物描写だったり)がある ③覚えた時期に高座に掛けるチャンスが

[噺のネタ]4『阿武松』(芝居と相撲の噺は…)

「芝居の噺と相撲の噺は好きで好きでしょうがない奴しかやっちゃあダメなんだ」 とある噺家が高座で相撲のネタを掛けた時に、師匠がアタシに言った言葉です。 その後で「まぁ、お前は芝居の噺はやっていい」 そう言われたので、その後色んな芝居のネタを覚えました。 が、相撲についてはなかなか許可が出ず。。。 実はアタシにはどうしても掛けたい相撲ネタがありまして。 それが『阿武松』。 六代目の横綱・阿武松緑之助の若い頃の物語で、三遊亭円生師匠の十八番。 元々が講釈の為、地が多

[噺のネタ]1『孝行糖』(南喬師匠から)

アタシが楽屋入りして一番最初に衝撃を受けた高座が、桂南喬師匠の『たらちめ』でした。(通常は『たらちね』ですが金馬師型はネタ帳にそう書きます) もう面白くて面白くて。 前座になって半年ぐらいに「お前ももう少ししたらヨソの師匠に稽古を頼んでやろう。誰か稽古をつけてもらいたい人いるか?」と聞かれ、「扇橋師匠と南喬師匠」と答えるぐらい大好きな師匠。 南喬師匠は、戦後ラジオで絶大な人気を集めた三代目金馬師の最後のお弟子さんです。金馬師が亡くなられてからは、桂小南師匠の門下として芸