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冊子をつくるうえで大切にしていること

フリーランスの編集者・フォトグラファーのたまたま舎 森髙まきです。
取材を通して対象の魅力を見つけ、それを形にして誰かに届ける仕事をしています。このたび、豊浦町の地域おこし協力隊募集冊子を制作しました。
デザインは安定のdrop around 青山剛士さんです。

drop aroundは私が暮らしている洞爺湖町のデザイナー。編集・撮影の私と組んで、「とうや子プレス」という制作チームを結成。いままでに7冊の本・冊子と新聞三号分を作ってきました。

制作した冊子。6月8、9日から私が営むたまたま書店で配布しています。残わずか。

私の仕事に一貫して言えるのは、愛があることなんです。それが、この仕事ではとてもわかりやすい。表紙からすでにそれを感じとっていただけたらうれしいです。

地域おこし協力隊の冊子をつくってほしい

依頼を受けたのは、仕事仲間である豊浦町のさんおん印刷です。豊浦町は、私が住む洞爺湖町から車で20分の海の町。近いので私自身も夕日を見に何度も行ったことがありますし、移住者同士の交流も盛んな町です。

まず依頼をいただいたとき考えることは、相手の伝えたいことを理解すること。そのためにしっかり話を聞くことを大事にしています。

ただ、最初は「地域おこしの応募が増えてほしい」とか、「町の魅力が伝わるものにしたい」というざっくりした希望であることがほとんど。そこからもう一段階深掘りして、「どんな協力隊がほしいのか?」などを聞いていきました。

どうやらモデルとなる協力隊がすでにいるようです。その人が北海道移住フェアや協力隊のイベントなどに来て、地域にこだわらず移住先を探している様子を想像して、その人に目に留めてもらい、「私が探してる町だ!」と思ってもらえる冊子にすることをゴールにします。

作り始める前に、町の輪郭をつかむ

そのモデルとなる方ともともと知り合いだったこともあり、プレ取材という感じでドライブ。豊浦町って、どんな町ですか?きれいなことばっかり言わなくていいです、と伝えたうえでざっくばらんに話してもらいました。結局、あまり悪いところが出てこなかったのが印象的でした。3年住んでてそんなことある?私は田舎暮らし3年目なので、それがいかにすごいことかというのもわかるようになりました。

固定された私のイメージから始まることのないように、できるかぎり具体的に誰かに聞くなどして、一次情報に触れるところから始める。それが私のポリシーです。

ほかにも町内の資料館で郷土資料を手にしたり、町を歩いたり、夜はスナックを訪ねたり。他の人からも町のことを聞いたりしました。

軸となるテーマを決める

はたらく馬のいる場所。horsemade landscape

これは、作りながらどんどん変わったり、核心に近づいていくものでもあるのですが、町の輪郭を知ったうえで、冊子の軸となるテーマを決めていきます。一つカギとなったのは、豊浦町には自然栽培でいちごを育てる「佐藤いちご店」や馬耕を実践する「horsemade landscape」さんなど、尖った移住者が多いということ。彼らが移住してそこに根付いているという事実は、尖った人でも居心地よく暮らせる町だということを示しています。

地域おこし協力隊の方々からも、そんな移住者の先輩たちの背中があることが、ここに住み続ける理由のひとつにもなっているという話をたくさん聞きました。

ルールを守ることが是とされることの多い“田舎”で、そうじゃない人たちでもやってきて根付いていけるのはなぜか。それはきっと、放っておいてもらえる余白があるから。

町のカラーが定まりすぎていないこと、観光の目玉がないこと。それらすらもポジティブに言い換えられる魔法の言葉「余白」、「伸び代」。表紙に書いたキャッチコピーは、「この町の余白に、何を描こう」です。

観光の目玉なんてなくても、赤く燃える夕日が目に入ったときには、なんとなしに海岸に寄る。そうすると夕日を見にきた仲間たちがたまたまポツポツいて、一緒に日が暮れるのを眺めてる。そんな日常が豊浦町にはあるそう。

それって、とっても豊か。日常を聞けば、町を歩けば、なんにもない町ってない。田舎暮らしをしている私だから気づける、よその田舎の特別なところ、素敵なところがあります。

テーマが決まれば、その軸に沿って、内容を決めて取材し、肉付けしていく。
編集とはすなわち、だだっぴろい平原に道をつくること。ルールを見出すこと。落としどころをつくること、だと思います。

3.肉付けしていく

デザイナーの剛士さんには、私が感じた豊浦町のことと、テーマを余白にすること、そのうえでデザインも余白を意識してほしいと伝えました。

ページを開いて突然本題に入らずに、最初の方にはフォトエッセイを4ページ入れました。言葉にしにくい、豊浦町での暮らしの豊かさを言葉と写真、デザインをもってして伝える。冊子を開いて豊浦町の世界観に誘う。そのためのエッセイページです。

町暮らしのエッセイ。こんな暮らしが送れるんだ、というイメージを与える。

恒例の取材ページは、地域おこし協力隊の活動と、プライベートの取り組みの2カットを大きく配しました。地域おこし協力隊って、活動がすべてではないんですよね。ふつうに暮らす。その町での暮らしを楽しむ。それも立派な活動にあたるということで、メイン以外のオフの写真も撮らせていただきました。日を改めて撮影するので労力は2倍ですが、いいものを作りたい。いきいきした表情を見せたい。それだけです。

取材時期は雨が多かったので、何度も何度も通いました。そのうちに自然と、この町とここに暮らす人に対する愛が、どうしてもあふれてくる。愛ゆえに、効率を無視して一生懸命やらざるを得なくなる。それが私の欠点で、最大の長所です。

表紙に使えるカットが撮れて大満足。協力してくださったみなさんに大感謝です。出来上がった冊子を見返してみると、写っているのは、愛。写真に写るみんなのことが、豊浦町が、大好きになりました。

関係性を築けないと撮れない表情があります。


大切にしていること

  • 相手が伝えたいことを聞き、相手が気づいていない部分まで掘る

  • 作る前にできるかぎり一次情報に触れ、輪郭を知る

  • 軸となるテーマを見つける

  • いいものにするために労力をいとわない

  • 愛こそすべて

地方に暮らすと地方の仕事が増えます。田舎暮らしの方、協力隊の方に話を聞くうえで、自分自身が田舎暮らしをしていてよかったと思うことばかり。取材相手が話されている内容や活動がいかにすごいことなのか、貴重なのか、すばらしいことか、という部分への解像度が1億倍に上がりました。

大手の広告代理店や制作会社に頼むのもよいでしょう。素敵なものができると思います。けれど血を通わせて、人と人で向き合って、頭を悩ませながら、よいものを作りたいと必死になれる人がここにいます。頼んでくれた方と同じ熱量で、町や会社に向き合っていきたいと思っております。

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