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六月の鳩  しんくわ(2018)

 どうやら僕の住んでるアパートの部屋の窓の外の金木犀の枝の中に鳩が巣を作っているらしくて、部屋の中にいると低い鳩の鳴き声がする。さっきバサバサッと羽ばたかせるような音も聞こえた。僕が(いるな)と思うと同時に、窓の向こうの鳩も建物の中にいる僕に気づいているはずである。なぜならば、人間である僕のほうが、身体も大きくて、足音や、くしゃみやイビキとか、鳩よりも大きな音をたてているからだ。たぶん卵を抱いている鳩にとって、僕の存在は壁の向こうに確実に存在している巨人かなにかのようなものだと思う。ドキドキしながら、卵を温めているであろう。

 金木犀の枝の中にいる鳩を見てみようと、一階に降りて覗いたのだけど、姿は見えない。ネットで鳩の生態を調べてみると、一年に数回卵を産み、夫婦で代わる代わる温めてるとのこと。二週間で雛になり、約一ヶ月で巣立つらしい。

 僕が眠るベッドとほぼ同じ高さでカーテンと窓越しの金木犀の木の中で鳩の家庭が築かれて、一ヶ月と半月くらいで、子供が巣だっていくわけだ。僕は独身なのに。それは関係ないけど。

 いや、関係ある! 鳩を含めた鳥類って、もとをたどれば、恐竜が祖先だったという話だ。どうやら、気嚢という呼吸器官とか、骨格が同じらしく、地球が暖かくなって、現在の温度になるにつれ、スケールダウンしていまの鳥になっていったらしい。

 人間から名付けられた過去存在していた恐竜の子孫の鳩、噂によると五秒前に起こった出来事は忘れているらしい、鳩。が、人間である僕よりも人間らしい家庭を作って、(それも年に数回も)子供を巣立ちさせるとは、何事だ! 窓の外からとりあえず独身の僕に謝れ! 「くるっくー」じゃなくて、とりあえず「ごめんなさい」日本語で言え。ナウ。今すぐだ。ごめんなさいって言えなかったら、あれだ、蟻だ。いや、あまがえるだ、進化史上であまがえると別れた朝を歌った笹井宏之のように、僕は、鳩に歌を作る。今から窓ガラスを割って卵を温めている鳩の頭にアイアンクローだ。窓ガラス割れても末にアイアンクローだ。先に下句ができたので、上の句は崇徳院にお任せだ。鳩め、人間の力を思い知れ!

 と鳩に対する怒りで体温があがって、目が覚めたので雨のなか、会社に参ります。

あまがえる進化史上でおまえらと別れた朝の雨が降ってる
                 笹井宏之『ひとさらい』

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