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手のひらのちいさな舟  田丸まひる


  緊急帝王切開
「かんまんから切ってください」以外には知らない体はらはら燃えて

  酸素マスクに手を添える
比喩じゃない心音が遠くなる音を数えてこの世の灯火を吸う

ふたりからひとりひとりになる時にわたしは無力だったはつなつ

剝がされるように生まれてきた子から握られる手を握り返した

新生児室の子らには名がなくてどの子もみんなべびちゃんと呼ぶ

茉莉花の莉を編み込んで香らせる名づけは未来につながる祈り

くしゅくしゅと音のしそうな顔をして今から泣く、と教えてくれる

数行も続けて読めず、泣き声をBGMにして立ち上がる

耳つきの帽子を選ぶこの耳に意味はないって分かっていても

似合うとか似合わないとか好き勝手させてもらっているお出かけ着

まだ笑うことを知らない子を抱いた鏡の中のわたしは笑う

縮んでは膨らむようにあくびするたびに大きくなっていくんね

ぷくぷくとこの世の日々を吸う口の端から少しこぼれるミルク

紡ぎ出す時間のなかに手のひらのちいさな舟をきみは浮かべる


「七曜」193号に収録


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