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140文字の連読小説 ②

番組の冒頭で突然始まる長谷川さんの自作小説。

1話につき140文字以内のショートショートを連ねて、少しずつストーリーが動き始めます。前回は1話から10話までを掲載しました。

今回は、前回の続きを20話まで掲載します。

【11話】
‪嬉々として元カレエピソードを語るミチコは、僕の下がり続けるテンションを知ってか知らずか、彼の情報をこれでもかと僕に投入してくる。そして、僕の我慢が臨界点に達しようかという時、ミチコは急に俯き小さく言った「ストーカーになっちゃった」僕は何故か、心の高揚を感じミチコの顔を見た。‬

【12話】
‪ミチコの元カレ、玉置浩一。今はミチコのストーカー。「そいつに何をされたの?」僕は心配する気持ちと興奮が入り混じり少し声を震わせ、ミチコに問いかけた。「うん…住み着いちゃってるの」意外すぎる返答に絶句する。「え?住み着いてる?どういう事?」流石に動揺して、思わず声が大きくなった‬。

【13話】
‪ミチコが言うには、彼玉置浩一の意識がミチコの部屋に居るのだそうだ。僕は理解に時間がかかるこの難題に、頭が真っ白になった。意識が居る?それはストーカーでも何でもなく、単にミチコが元カレを引きずっているだけではないか…?僕は努めて冷静を装い、ミチコに言った「で意識は今も部屋?」‬

【14話】
‪ミチコは、うつむき、小さくため息を漏らした。ごめん…もうこれ以上元カレについて追求するのはやめよう。意識があろうが無かろうが、実際には別れているのだから。話題を変えようと、ミチコの好きな猫動画の話でもしようとスマホに手を伸ばした時、ミチコが独り言の様に呟いた「ここにいる」‬

【15話】
‪一瞬、空気が止まる。僕が聞く前に、ミチコはまた「ここにいる」と噛み締めるように言った。僕は見えるはずもないが辺りを見渡した。何も変わらない部屋だ。「冗談でしょ?」僕の問いかけにミチコは、ややオーバーに首を振る。「うしろ」「は?」「だから、キミの」「おれの…」「うん、うしろにいる」‬

【16話】
‪思わず、後ろを振り返る。そこには、数冊しか本がない木目が大きく古臭い本棚、壁には利用している銀行で無理矢理渡されたカレンダー、それだけが無関心に空間に収まっている。5秒ほど、固まる様に視線を集中させたが何も居ない。「いないじゃないか…ミ…」再びミチコの方を向き直ると、そこには‬…

‪【17話】
男が座っていた。その男は、メガネをかけており顔立ちは地味な印象だが透き通るように色白で、紺色のポロシャツに暗い色のズボンを履き膝を抱える様に座り、体は僕に対して横向きだが、顔だけをこちらに向けて瞬きもせずに僕を凝視していた。顔だけが立体的に僕に近く迫ってくるように感じた‬。

【18話】
‪僕の部屋は、もう僕の部屋ではないかの様だった。ただの四角い空間に過ぎない、ミチコはおろか家具も何もなく、色彩も感じられなかった。その男、恐らく玉置浩一に表情が無かった。僕は息をする事も忘れて、玉置浩一を見つめるしかなかった。何時間か、何日か、永遠にも感じられる時が流れていく。‬

【19話】
ねえ、どうしたの…、起きて、タモツ、タモツ!…。意識を取り戻す。仰向けになった僕の目の前にミチコの不安そうな顔があった。ミチコに名前を呼ばれたのも久しぶりな気がした。ミチコからはキミ、とか、ねえ、あのと言った感じで何故か僕は名前で呼ばれない。そんな事をボンヤリと考えていた。

【20話】
ミチコ…。ゆっくりと体を起こす。ミチコは僕の額に手を当てる、思いの外ミチコの手は冷んやりとしていて僕は目を閉じる。額に当てられた手が心地良く体温を吸収していく。その手の冷たさが温もりに変わった瞬間、僕はミチコの手首をつかみ、少し驚く彼女に言った。いますぐに、ここを出よう。‬

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