ストラディヴァリウスを巡る雑感

ストラディヴァリウスと現代の楽器を聴衆に聴き比べさせたところ現代の楽器の方が良いという結果が出たそうだ。この結果は正式に論文として発表されるという。

正式な論文、正式な実験といっても結構杜撰なのだな、というのが私の正直な感想である。

ここでは二つのことが前提とされている。

聴衆は演奏の良し悪しを判断できる。また奏者は良い楽器を正しく演奏できる。この二点だ。

後者については訝る人もあろうか。

良い楽器とはどのような性質を持っているのだろうか?ここではサラブレッドと駄馬、または高性能スポーツカーと一般車を例に出すと分かりやすいだろう。

サラブレッドは騎手の技倆を察知するのだという。素人が跨ったところで一歩も動かないことすらあるそうだ。この場合悪いのはどちらか言うまでもあるまい。

また私のように一般的な免許保有者が何千万もする高性能スポーツカーを運転すると、スタートすらままならない。よし走り出したところでノロノロギクシャク前進するばかりで挙げ句の果ては急発進してハンドルを取られて事故になるかもしれない。

それを見ていて高性能スポーツカーよりも一般車の方が高性能ではないか、と言うのもこれまたお門違いである。

ヴァイオリンやピアノにおいても同じことが言える。

私はヴァイオリンについては聞きかじりの知識しかないけれど、ストラディヴァリウスやガルネリウスなどを技倆の足りぬ奏者が弾くとはじかれるような感じがするのだという。

ピアノでも似たようなものだ。良いピアノとは汚い音にもなれる楽器のことだと言っても良い。

そう考えを押し進めてみるとこの実験はちょっと素朴すぎるのではないかと思えてくる。

付け加えておくと、かつてフルニエが来日した折、彼の使用する楽器は所謂名器ではないという記事があった。私の師コンラート•ハンゼンもヤマハを弾いて素晴らしい響きを作っていた。

レーシングドライバーは一般車に乗っても実に美しく走る。ここでも楽器と奏者の関係と全く同じなのである。

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