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【百線一抄】048■新モードで室戸への風となれ-阿佐海岸鉄道

海部と甲浦を結ぶローカル線、阿佐海岸鉄道。中間の宍喰を入れて
全部で3駅の小さな第三セクターの鉄道会社だ。徳島からの牟岐線
を受けて高知県境をまたぎ、計画線としては室戸を経由して後免に
至る路線の一部を成すかたちをとるが、もとより沿線人口が少ない
ため利用が伸び悩み、接続する牟岐線や路線バスによる観光需要の
見込みも少ない区間であった。保有車両も2両のミニ鉄道だった。

今に至るまでの道程は平坦ではなく、徳島から牟岐まで到達したの
は戦時中。その後海部まで延びたのは1973年で、以南の工事は
打ち切りとなった。その状況下にあって、路盤等の造成がほぼでき
つつあった区間の工事を進め、徳島・高知両県と沿線自治体などが
名を連ねて第三セクターによる鉄道会社が運営することで、延伸が
実を結ぶこととなった。工事の再開は平成に入ってほどなく、4年
の歳月を経て海部―甲浦間が開業、牟岐までの直通列車もできた。

大きな流動の変化は生まれず、接続する牟岐線の状況変化とともに
乗り入れ列車も減少し、海部での接続・乗換が中心となっていく。
列車そのものも1両の車両が往来を繰り返すという、単純なダイヤ
の運営が長く続いた。拠点の宍喰では、唯一の有人駅としてここの
みで買える硬券の発売や、イセエビの駅長の就任も話題となった。

苦戦が続く阿佐東線の有効活用へ徳島県が着目したのが、北海道で
段階的に実験運用が進められていたバスの鉄道乗り入れだ。鉄道だ
けではカバーできない周辺施設へバスが直接アクセスして、本来の
鉄道が持つ利点である定時運行や安全性を組み合わせ、地域の足は
もとより、既存の路線バスや高速バスとの接続もとりやすくなる。
乗り入れの準備のため、関連設備の工事進捗に伴って順次バス代行
を導入、牟岐線も一部期間で運休やバス代行による輸送が続いた。

大がかりな工事を経て線路上を路線バスが走るDMV(デュアル・
モード・ビークル)が運行を始めた。切替設備の関係で、接続は海
部ではなく、1駅牟岐線寄りの阿波海南となったため、運行会社も
ここで接続することになった。これによって阿佐海岸鉄道は、鉄道
路線部分の距離が10キロ、バス区間を含む距離は約50キロへと
拡大された。土休日には、室戸岬を経て海の駅とろむへ到達できる
長い系統も設定された。岬めぐりで後免を目指す旅はいかがかな。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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