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【百線一抄】009■こまちに乗って阿仁マタギー秋田内陸縦貫鉄道


春の訪れが遅く感じる北東北にも、なかなかの桜の美しさを誇る街
並みを擁する場所がある。それらの代表格と言っていい「みちのく
の小京都」角館からマタギの里を抜けて、奥羽本線の鷹巣へと結ぶ
1本の路線がある。秋田内陸縦貫鉄道といい、県北部の短い2本の
ローカル線を転換後に延伸して繋いだ。第三セクターの路線の中で
は距離が長いグループに属するが、沿線人口が少ない地域を走る。

産みの苦しみもさることながら、地域の宿願であった1本の路線に
つながってからも利用客は少なく、各地でさまざまな試みや話題作
りが繰り広げられた。急行列車の運転を始め、沿線の田んぼアート
に温泉が併設された駅など、同業各社に勝るとも劣らぬ取り組みが
県や市とともに行われている。阿仁スキー場で見られる樹氷は、森
林が拡がる山麓を魅力的なスポットにしている。春は山菜採りに、
夏は森吉山の高山植物の観察、秋は山肌を彩る紅葉が旅人を誘う。

いつの季節に乗るかで印象が大きく変わる秋田内陸線だが、地図を
たどってみると、途上に個性的な名称の駅がいくつかあることに気
づく。阿仁マタギはマタギの里を印象づけ、笑内は読み方を知った
ら文字通り笑えるかもしれない(読みは「おかしない」だ)。最近
になって改称された縄文小ヶ田は沿線の縄文遺跡に由来している。

ワクワクするかもしれない光景が楽しめる内陸線のスポットは、意
外なところにもある。実は闇の中を列車が走るトンネルそのものも
見どころなのである。秋田県内の最長距離を誇る十二段トンネルが
他所ではなかなか珍しい雰囲気を味わえる場所となっており、列車
に乗ってトンネルへ入り、線路を登り切ったところで前後に視線を
振ると、入口と出口の両方を同時に見ることができる。途中で曲が
る区間がない、真っ直ぐなトンネルは確かに数少ない存在なのだ。

長い路線ゆえ単純に乗り通すと2時間から3時間かかるのは事実だ
が、どこかの1駅、場所を決めて列車を乗り継いでみるのもおすす
めだ。例えば最近話題となっている鉄印帳は、記帳ができる場所が
線内では阿仁合駅の観光案内窓口の1か所となっており、1本の列
車の停車時間では余裕がなさ過ぎる。そこであえて次の列車が来る
までの時間を食事や周辺の散策に活かすことで、地産地消の奥深さ
に触れたり、発見や収穫に出会えたりする楽しみが手に入るのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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