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【百線一抄】051■仙岩を穿つ道、眺む間もなく移りゆくー田沢湖線

刮目して待て。待たずとも10年から15年もすれば、過去など全
く遠くに追いやってしまうほどの大成長を遂げてしまう。山越えに
とてつもなく時間をかける展開にこそなったものの、開通してから
段飛ばしでローカル急行、エル特急にミニ新幹線と姿を変え、さら
には国内最高速を誇る車両が往来する線がある。田沢湖線である。

描かれた構想そのものは大正期から存在しており、山麓に近い地域
や集落へは早々に軽便線として開業にこぎつけている。しかし世相
は不況にあえいでいる時期にあたり、ほどなくして戦時体制に向か
い工事は止まった。戦後に入り、新たな建設計画が立ち上がって赤
渕駅と田沢湖駅を結ぶ仙岩トンネルが開通し、現在の田沢湖線がで
きあがった。全通後は2往復の急行列車が接続駅の大曲で奥羽本線
の主要急行と分割併合する、よくあるローカル線そのものだった。

最初の変貌は1980年代。東北新幹線の盛岡開業に伴う、秋田と
新幹線を連絡する路線として電化改良工事が進められたことによる
ものであった。2往復だった急行は6往復のエル特急に進化、まだ
グリーン車こそなかったものの、全通して15年ほどで特急電車が
颯爽と走る路線に姿を変えた。民営化後は特急の本数も倍増した。

さらなる変貌は1990年代後半。山形新幹線の成功を受け、秋田
新幹線の工事が始まった。1年間の運休期間を経て軌間拡幅、施設
も改良され最高速度も向上した。特急「たざわ」は東京・仙台から
新幹線を駆け抜けて秋田を直結する「こまち」に進化して、東京か
ら秋田へ最速3時間台での到達が実現した。東北新幹線内での所要
時間も高速化で短縮が進み、2014年には大半の列車が4時間以
内で東京と秋田を結んでいる。現在の最速列車は3時間半に迫る。

もしさらに田沢湖線が変貌するとしたならば、新たなトンネルを経
由して時間を短縮しながら自然災害にも対応できる強靱な路線にな
るときだろうか。四季折々の風景が楽しめる区間は短くはなるが、
多くの地域間流動を担う路線である側面も見逃せない。少ない鈍行
も県内移動に欠かせない交通手段である。田沢湖や角館といった代
表的な観光地はもとより、大曲で毎年開催される全国花火競技大会
を全国区に広められたのは、田沢湖線の大成長あってこそなのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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