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【百線一抄】001■いなほに乗って第一歩~由利高原鉄道

鮎川に沿うように走る県道とローカル線が交わる踏切のそばにある
木の壁や瓦屋根がいい味を醸す学校のようなところ、そこが秋田県
の由利本荘市にある「鳥海山 木のおもちゃ美術館」の所在地だ。
建物の風合いは、あたかも戦前からあるようにも感じられるが、そ
の歴史は意外に新しく、実は戦後に建てられたものなのだそうだ。

館内は入念な手入れを施しながら、ほとんどそのまま再整備され、
リノベーションのお手本にふさわしい、素晴らしい空間に触れると
ほっこりした気持ちになれる、そのような温かい感覚が味わえる。
のどかな農村の風景が遠景に拡がる旧校庭に佇んでいると、様々な
色をまとったディーゼルカーがそばをタタンタタンと通り過ぎる。
本荘市と由利町、矢島町の3つの自治体を結ぶ国鉄矢島線が三セク
の由利高原鉄道鳥海山ろく線となり、近く開業100年を迎える。

とりわけ由利高原鉄道、愛称「由利鉄」は趣きある話題づくりが上
手いと感じられる路線なのだが、ひとつ挙げられるとすれば、話題
を立ち上げて少ししたらそれで終わり……なのではなく、息の長い
安定感のある取組を継続しているものがいくつもあるという点だ。
「らしさ」を感じる好例としては、午前に走る「まごころ列車」が
見どころだ。秋田おばこ姿の専属アテンダントが乗車する列車だ。

わかりやすい取り組みとしては、国鉄時代の施設を活かしつつ、人
が関わるところに多く触れられることだろうか。前郷駅では列車の
交換(すれ違い)があるが、ここでは昔ながらのタブレット交換が
路線の閉塞方式の関係で現在も残っている。駅員がいる駅では切符
も窓口で直接買い求めるようになっており、それも昔ながらの硬券
で発売されている。1日乗車券なども当然買える。終点の矢島駅で
は、駅にいる人々が手空きであれば出発時に見送りもしてくれる。

つながりの深さを感じさせる話題として外せないのが、私設応援団
「由利鉄応援団」の存在だ。会社公認で全国各地に会員がおり、実
に多くの人が鉄道関連のイベントに参加し、その規模や熱意は群を
抜いている。中には無人駅の名誉駅長や副駅長を務めたり、足繁く
列車で由利鉄沿線まで通い、鳥海山や沿線風景を絡めた写真を撮り
つつ、そして由利鉄に乗り地元へ帰る人もいる。特急「いなほ」で
着いた羽後本荘駅では、ぜひ窓口で切符を買って由利鉄に乗ろう。

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