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てっぺんを獲る・てっぺんを獲らない

目覚めると、雨の音がした。電灯がなく、暗い。唯一付けたままのディスプレイに、ダイナミックパパさんのプレイするWoTの画面が映っている。時間は2時55分。TwitchDropsは、綺麗に落ちている。余り褒められる行為ではないが、寝ている間にパソコンをつけておいて、こうしてトークンをゲットしているのだ。

トイレに立ち上がると、頭がフラッとした。眠い。エアコンが音を立てて、冷たい風を送り出してくる。水槽の水面が送風に揺られ、パソコンの灯りを屈折して伝えてくる。

「この時間に目覚めるのは久しぶりだね」

睡眠導入剤を飲んでから、4時間しか経っていない。本来なら薬が効いて眠っている時間だ。まあこんな事もたまにはあるかと思い、トイレから帰って再び布団に入った。

すぐには寝付けない。静かに深呼吸している。時が経つのがもどかしい。
ふいに右手を天井に掲げ、手の甲を見てみた。

「クランか・・・」

ウンバボにいる限り、私は『てっぺん』になれないだろう。WoTのプレイ歴は6年を超えた。クラン歴は2つ。他所のクランのことなんて分からないが、近場のクランの情報なら耳を澄ませて聞いている。
ウンバボの政権運営は、自分の手の届く範囲だけでやっている。CWEに出るとなると、他の副司令官たちもキチンと動かないといけない。進撃戦だって殆ど同じだ。
前に戦闘士官のみやこマンが「進撃戦なんてしようものなら、ウンバボは崩壊するよ?」と忠告された。その通りだと思う。
もし『てっぺん』に立つつもりなら、自分のクランを立て、新興クランとして売り出し、CWEの運営に携わる人を探さなければならない。

「それだけの能力がない」

昔はCROWNというチャンピオンがいた。挑戦者は何度も、何人も現れた。あの頃のクラン運営は刺激があり、面白さがあった。今も知らないだけで、そうかもしれない。いつかCROWNのような、あるいはあの挑戦者たちのような、みんなが憧れるデカいクランを運営してみたい。男なら誰だってそう思うはずだ。

私にそれだけの能力があれば良いと思った。それにはウンと鍛えなければならぬ。WoTのPRが1万超えるようになれば、だいぶ強いと言えるだろう。

「その時、私は族長を超えて・・・。」

そう思った瞬間、あの笑顔を思い出した。
2019年秋、夜の新宿の街。世界屈指の都会で、私は初めて族長と対面した。
デカい。
人混みの中、ただ一人オーラを身に纏い、頭一つ抜きんでてゆったりと歩く様子。
あれぞまさしく『てっぺん』だ。

配信中、誰よりも笑顔を絶やさずWoTというゲームをどれだけ楽しくプレイできるか。ウンバボのメンツに囲まれて、ふざけあっている姿。時に大声で叫び、みんなを笑顔にした姿。

クランを抜けて、新しくクランを立ち上げる。そして仲間を増やす。そんなことは些細なことだ。だが私は、それができないと思った。それは族長への裏切りだと思ったからだ。正道に反すると思ったからだ。
もし私が族長を裏切って、十数人のクラメンと共に新しいクランを立ち上げたとしよう。それで『てっぺん』が取れるのか。

いつも私は族長の背中を見ていた。
あの超えられない壁。途方もない壁。
『てっぺん』が獲れなくても、『本物』になりたかったら、ついていくしかない。
族長がなければ、今の私はない。だから私は、ウンバボこそ『てっぺん』だと思い続けたのではないか。

「ここが、てっぺんだ」

雨が、強くなっている。轟音に近い音で、地面に打ち付ける水の音。それを聞きながら、私は満足して、眠りについた。

インターネットを渡り歩いてまだ6年、色々なカテゴリを楽しみ、「消費者」として生きています。 そんな文化の消費者の毎日思ったことアレコレを書いていきます。雑記。