独裁国家の「超リベラル政策」
人ってのはワガママなもので、あまりに自由すぎると規律を求めるくせに、規律が過ぎると自由を求めるものです。
世界にいくつもある独裁国家は、例外もありますが、多くは分裂を防ぎ国家を統合するために独裁体制を敷いている場合が多く、分裂の原因になる「異分子」の混入を何よりも嫌う。それ故、保守的な価値観に基づきながら、トップダウンの政策で成長を図るところが多いです。
ところが中には、まるで北欧かと思うほどリベラルな政策を採っている独裁国家もあったりします。
1. 北朝鮮では大麻が違法ではない
大麻の使用は欧米では容認の流れに進みつつありますが、日本を含む東アジア・中東では「ドラッグ」扱いされ、私的な利用は処罰の対象となります。
ですが以外なことに、東アジアの中で唯一北朝鮮では「大麻利用に関する規制の法令が存在しない」のだそうです。積極的に大麻を認めている、というよりは「別に取り締まらなくても問題ない」という感じです。
もともと北朝鮮では大麻草は油を採るための草で、金日成の大号令で栽培が奨励されましたが今やそれ目的で栽培する人は少なくなってしまった。そのため、栽培が放棄されほぼ雑草化していて、北朝鮮住民も「ウサギの餌以外の用途がない」とすら思っているらしいです。
ところが隣国の中国に持っていけば高値で売れることを知った商人が、野生化した大麻草を農民に刈らせ、1キロを30元(約500円)で買い取り、中国で500元(約8300円)で売り、大儲けしているそうです。
また国内の市場でも買えるそうですが、大麻がドラッグとして大変な人気があることを知っている北朝鮮住民は少なく、観光客が大麻を吸っても特に大きな問題にはならないとのこと。
2. ナチス・ドイツの世界に先駆けた動物保護法
ドイツは動物保護や動物の権利に関する意識が国民レベルで高い動物保護の先進国なのですが、実はこれは伝統的なもので、19世紀から動物保護に関する法律がありました。
1871年にプロイセン王国を中心に制定された「ドイツ刑法典360条13号」では、「公然と又は不快感を生じさせるような仕方で動物を意地悪く虐待し又は粗暴に取り扱った者」は、軽犯罪として150マルクの罰金又は拘留の刑罰を受けるとされています。
このような動物保護法はナチスが政権を取った後も継続され、1933年には極めて先進的な動物保護法である「ライヒ動物保護法」が成立しました。
第1章1条は「動物を不必要に苦しめたり手荒く虐待することを禁ずる」という文言から始まり、以降は具体的に処罰の対象となる行為が述べられます。
例えば「猫、狐、又はその他の動物に犬をけしかけたり、これにより犬の力を試すこと」「生きている蛙の腿をちぎったり切断すること」などなど。
虐待行為に対しては最高で 2年の懲役刑、又は罰金刑、もしくはその両方が課されるとされています。
動物実験も原則禁止され、その後兵器開発にあたって緩和されたものの、違反した者は最高6か月の懲役刑、又は罰金刑、もしくはその両方が課されました。
3. 男女平等ランキング世界5位のルワンダ
アフリカのルワンダは部族対立が内戦に発展。80万人から100万人が短期間で殺害されるという「ルワンダ大虐殺」が発生しました。
内戦が終わった後、ポール・カガメが大統領に就任。内戦の傷から回復をすべく目覚ましい経済発展を遂げています。ルワンダは共和制国家ではありますが、ポール・カガメ大統領は強権的に反体制派を押さえ込む手法で独裁的な権力基盤を強めており、実際に憲法を改正して大統領の任期を延長し、最大で2034年まで職に就けるようにしてしまいました。
さてそんなルワンダですが、2016年の「男女格差ランキング」では5位になっている、男女平等に関しては極めて先進的な国です。
元々ルワンダでは男尊女卑の意識が強く、特に昔から女性の地位が高かったわけではなかったようですが、きっかけとなったのが「内戦による男性の減少」。
カガメ政権は苦肉の策で「女性の活用」を打ち出し、2003年に議席の3割以上を女性とするクオータ制を導入しました。
これがきっかけで女性が社会に出る風潮が広まり、政治だけでなく、経済・学術・軍事などあらゆる部門で女性が進出し社会の活性にも大きな影響を与えているそうです。
男性が減った穴を埋めようと女性が進出する例は様々にあり、例えば西アフリカのダホメ―王国では、男性が減ったことによって女性が軍事の主力になったこともあります。
女性の社会進出はルワンダの伝統社会のトランスフォームであり、社会に様々な歪みをもたらす可能性もあり良いことばかりではないでしょうけど、日本も大いに見習うべきではないかと思います。
4. 難民250万人を受け入れるサウジアラビア
サウード王家を頂点とするサウジアラビアは、イスラム法シャリーアを厳格に守る国家。基本的に人々はシャリーアに則った生活を送ることを指定され、国家運営は王家が行う。我々が考える「自由さ」とは遠く、様々な女性の社会活動の制限が人権侵害として国際的に非難されています。
御存知の通りサウジアラビアは石油で潤う国ですが、これまでシリアで発生した難民をほとんど受け入れていないと言われてきました。
近隣のイラク、ヨルダン、レバノン、トルコ、エジプト。それにヨーロッパ各国やアメリカ、カナダは多くのシリア難民を受け入れてきましたが、「同じアラブの金持ち国家が全く受け入れないのはどういうことだ」と国際社会の批判を受けてきました。
この国際的な非難に応える形で、2015年9月、サウジアラビア政府は「我が国はこれまで250万人ものシリアとイエメン難民を受け入れてきた」と発表しました。
この記事によると、すでに10万人のシリア人児童が公共学校のプログラムを受けており、7億ドルもの費用を投じて難民キャンプや周辺施設を作ったとのことです。
政府発表の数字なので全てを信用することはできないものの、かなりの数字の難民を受け入れていることは事実であるようです。
5. イスラム国家・イランでは性転換は合法
イランは1978年のイラン・イスラム革命以来、シーア派宗教指導者をトップに据えるイスラム主義の国で、もちろん欧米のリベラルな政策や思想とは相容れません。
同性愛についても世界でも最も厳しい国で、同性婚が認められないのは勿論、同性の性交渉をしたら「死刑」です。
ところがどういうわけか、「手術によって性転換するのは合法」とされており、希望者には手術が無償提供されます。他のイスラム国家ではここまで手厚いサービスは存在しないので、かなり異色であります。
イランは東西文明の十字路であり伝統的にリベラルな国で、酒を飲んで酔っ払って一晩中踊り明かしたりするような享楽的な文化が息づいていました。同性愛も昔は普通のことで、革命以降の「同性愛は厳禁」という建前と、存在する同性愛者の処遇を考えた結果の妥協がこの「性転換は合法」という施策なのではないかと思います。
まとめ
傍から見れば「リベラル」に見えますが、それは欧米の伝統から見た時の一方的な見方であり、それぞれの国には独自の事情があることがよくわかります。
表面的に欧米的なリベラル政策が数多いからといって、その国・地域を手放しで賞賛できるほど物事は単純ではない。
リベラル施策は良いことみたいに言われることが多いですが、本当に自分たちに取っていいことであるかよく考えないとダメですよね。
参考サイト
" 北朝鮮が中国への「大麻」輸出に乗り出す" ニューズウィーク日本語版
"ドイツにおける動物保護の変遷と現状" 中川亜紀子 四天王寺大学紀要 第 54 号(2012年 9 月)
"ルワンダの奇跡 崩れる慣習、可能性開く Wの未来 世界を動かす(4)" NIKKEI STYLE
"5 Shockingly Progressive Policies from Insane Dictatorships" Cracked
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