世界の神話に登場する「伝説の武器」
中二病という言葉の出現を待つまでなく昔から人々は、大人が口に出すのがためらわれるくらい恥ずかしい「さいきょうの武器」を考え出してはお話に盛り込んで熱くなっていました。
自分が考えた「さいきょうの武器」で遊ぶのは子供ですが、強い武器には老いも若きも憧れるもんなんでしょうか。
1. タミン・サリ(マレーシア)
15世紀に活躍したと言われる、マレーシアの伝説の戦士 ハン・トゥアが保有したと言われている短剣が「タミン・サリ」。
マラッカ王国の歴史書「スジャラ・ムラユ」によると、タミン・サリはジャワ島で鋳造された逸品で、マジャパヒト王国の格闘技大会のチャンピオンに授与されたもの。これを持つ者は「無敵のパワー」や「ダメージを受けないボディ」を手に入れるとされました。
これを手に入れたハン・トゥアは無敵の力を手に入れて、タミン・サリを片手に悪党相手に西に東に大暴れ。
しかし最後は、悪の親玉グヌン・レダンの悪巧みにはまってお姫様を取り戻すことができずに、失意の中タミン・サリをスルタン・マフムド・シャーに返還し、こつ然と姿を消したのだそうです。
2. フルンティング(イギリス)
イングランドの叙事詩「ベオウルフ」に登場する伝説の剣・フルンティング。
長い柄と鍛えられた鋼鉄で出来ており、血しぶきで鍛え上げられ、その剣を使う者で失敗するものはいないと言われた名剣だそうです。巨人グレンデルの母親と戦いに挑むベオウルフに、フロースガール王の廷臣ウンフェルスが貸し出しました。
いざ戦いが始まってみると、どういうわけか、フルンティングは全く効かない。
しょうがないのでベオウルフは素手でグレンデルの母をぶっ倒し、海中で発見したヨートゥンの剣を使って首を切り落としたのだそうです。期待した武器や新技が敵に通用せずに「…バ、バカな…」ってのは、よくあるパターンですよね。
3. ゲイ・ボルグ(ケルト)
海の獣「コンヒェン」と「クルイッド」が互いに争った挙げ句2匹とも死んでしまい、コンヒェンの骨で作られたのがゲイ・ボルグという棘槍。
人の身体を突くときは真っすぐに刺さりますが、刺さった後30の棘が開いて痛みを与えて血が噴出。抜く方法時は周りの肉を切り裂く以外ないなのだそう。 別バージョンだと、7つの槍先を持っていたとのこと。いずれにせよ、トゲトゲの槍だったのですね。この槍に刺さると、異常に出血する、どんな防具も刺さる、枝分かれしてあちこちに刺さる…等々とにかくタダじゃ済まない致命傷を負わされたようです。
4. グラム(北欧)
北欧の神話「ヴォルスンガ・サガ」に登場する戦士シグルドが持っていた伝説の剣がグラム。
もともとシグルドの父シグムンドが2つに割ってしまいましたが、鍛えなおすことで鉄をも切り裂く強力な剣に生まれ変わりました。 シグルドはグラムを持って竜に化けるファフニルというドワーフを倒し、その心臓を焼いて喰らった。その際に指を火傷してしまい、指をなめたときに一緒にドワーフの血もなめてしまいました。するとシグルドは全ての言葉を理解できるようになり、鳥のさえずりからファフニルの弟レギンが自分を殺そうとしていることを知り、先回りしてレギンを殺して黄金を手に入れたのでした。
5. ティルヴィング(北欧)
テルヴィングは、北欧の古エッダ(歌謡集)のサガに登場する呪いの剣。
オーディンの孫・スウァフルラーメは2匹のドワーフを捕まえて「命を助ける代わりに剣を作れ」と脅しました。ドワーフは渋々、鉄をも切り裂く強力な剣を作りますが2匹は剣に呪いをかけます。鞘から抜いたら必ず誰かを殺すこと、そして3度まで願いを叶えさせるがそのときに持ち主に破滅をもたらすこと。
この剣を使っていたスウァフルラーメは、アルングルムという蛮戦士に剣を奪われて刺されて死亡。アルングルムは孫娘・ハーヴァーに剣を渡します。すると息子のアンガチュールが兄弟のハイドレークに殺害されるなどハーヴァーの近辺で死亡者が相次ぐようになりました。
呪いがかかった剣というのも、何か魅力的な存在ですよね。アーサー王伝説にも「自分の最も愛する者を殺す呪いの剣」が登場します。
6. シャルル(シュメール)
神の能力の一部が備わっているため、空を飛んだり、一撃で1,000の兵をなぎ倒したり、毒液や火炎を放射したりと破壊力抜群。
その上、持ち主と会話できるので、次倒すべき敵や急所などを教えてくれるのだそうです。悪魔・アサグは石ころを魔物に変えて勝負を挑みますが、ニヌルタはこの武器を使って魔物をなぎ倒し、最後にアサグも倒して世に平和をもたらしました。
7. ジューコトル(インカ)
インカ帝国の戦争神で太陽神でもあるウィツィロポチトリは、その手にジューコトルという武器を持っています。太陽をシンボライズしており見た目は太鼓のように見えるのですが、立派な武器なのだそう。
伝説によると、姉である月の神・コヨルシャウキをジューコトルで殺害したそうです。どうやって攻撃するんでしょうね。
ウィツィロポチトリはこの他に、手に槍と蛇を持っており、蛇は槍に巻き付いています。ウィツィロポチトリはコヨルシャウキを殺す際、胸の部分を槍で突き、心臓をえぐったそうです。これはインカ時代の生贄の儀式と同じ方法なのだそうです。
8. ハルパー(ギリシア神話)
ハルパーは刃が鎌のように曲がった剣で、その部分で相手の首や急所を掻き切ります。神話でこの武器を使ったのは、オリュンポス12神の一人である青年神ヘルメス。
ヘルメスはハルパーを使って巨人のギガンテスやアルゴスを殺しています。ハルパーは相手が神や怪物であても効果があったとされ、おそらく古代ギリシアではポピュラーな武器だったのでしょう。
ヘルメスの他には、英雄ペリクレスが怪物メデューサの首を掻き切るのにハルパーを使っています。
9. フラガラッハ(ケルト神話)
フラガラッハはケルト神話に登場する神ルーが持っている多くの武器の一つ。
もともとはマナナン・マクリルという異界の神が持っていたもので、後にルーに託されました。フラガラッハとはケルト語で「応えるもの」という意味で、所有者であるルーの意思ひとつで動き、「敵を倒せ」と念じると一人でに鞘から解き放たれて敵をなぎ倒して鞘に戻ってくる。切れ味鋭く、どんな盾でも鎧でも壁でも切り裂くことができる。また、フラガラッハによって切られた者は、絶対にその傷が癒えることはない。
オートメーション機能という発想が古代からあったのがなんか親しみが湧きますね。
10. 炎のつるぎ(聖書)
「炎のつるぎ」はRPGにも登場する武器ですが、実は人間ごときが扱える代物ではありません。創世記第3章24節に記述があります。
エデンの園からアダムとエヴァを追い出した神は、再び人間が入ってこないように炎のつるぎを置いてエデンを守らせたとされています。ということは炎のつるぎは、自分の意思で動くのでしょうか。上の絵では天使が炎のつるぎを持っている様子が描かれています。いずれにせよ、神の持ち物なんでしょう。
ギリシア正教の祈祷書の一つ「三歌斎經」では、イエスの殉死により人間の罪は許され、炎のつるぎは取り除かれたため人間は再びエデンの園に入ることができるのである、とされています。
11. エクスカリバー(イギリス)
エクスカリバーは「アーサー王伝説」に登場する魔法の剣で、アーサー王が持ったとされる剣です。
アーサー王がエクスカリバーを手に入れた逸話は2つあります。
1つ目が「石にささった剣をアーサー王が抜き取り手にした」というので、2つめが「湖の乙女によって授けられた」とされるもの。
「王の資格がある者のみが引き抜くことができる」というのはお話として面白いし、次のストーリーに繋げやすいから好まれたんでしょう。アニメや漫画でもよくこの描写は現れます。
12. シャムシール・エ・ゾモロドネガル(ペルシア神話)
シャムシール・エ・ゾモロドネガルとはペルシア語で「エメラルドを散りばめた剣」という意味で、イランの古代叙事詩「アミール・アルスラーン」の主人公アルスラーン王子が持っていたもの。日本ではアルスラーン戦記のほうが有名ですね。
もともとはイスラエルのソロモン王が所有していた名剣で、その後Fulad-zerehという名前の角の生えた魔法使いの母親が大事に保管していました。母は息子を大切にするあまりに、伝説の武器以外では息子を傷つけられないようにし、その唯一息子を殺せるシャムシール・エ・ゾモロドネガルを後生大事に保管していた。
シャムシール・エ・ゾモロドネガルで傷ついた傷は決して治ることはなく、唯一Fulad-zerehの脳みそからできたポーションを使えば治療することができるのだそうです。
13. トゥアン・ティエン(ベトナム)
トゥアン・ティエンは黎朝越南の創始者・黎利(レ・ロイ)が持ったとされる伝説の剣。
175年の間ベトナムを支配した陳朝が胡朝によって滅ぼされたため、1406年に明王朝は陳朝の復興を掲げてベトナムに侵攻し支配を強めました(1407〜1427年)。これに対し1418年、地方の一首長であったレ・ロイが挙兵し明王朝打倒の戦いを開始しました。
土地の神様は彼を祝し、自分の持っていた剣トゥアン・ティエン(「天の意志」という意味)を授けた。しかしその剣はポッキリと折れており、しかも一部が欠けていた。
数年後、レ・ロイの軍勢でレ・ティエンという漁師出身の男が抜群の働きをみせて出世していた。ある時将軍がレ・ティエンの家を訪れたところ、何やら金属の塊のようなものがあった。これは彼が漁師時代に池の底から引き上げたものだという。不思議な光を帯びた金属を見て将軍はひらめき、レ・ロイの持つトゥアン・ティエンにはめてみるとピッタリだった!
完全となったトゥアン・ティエンを持ったレ・ロイは魔法の力でムキムキになり、十人力のパワーを手にして勝ち続け、とうとう明の軍勢をベトナムから追い出してしまったのでした。
14. デュランダル(フランス)
デュランダルはフランスの叙事詩「ロランの歌」に登場する伝説の武器で、主人公ロランが持つとされます。
もともとデュランダルは天使がシャルル王に授けたものでしたが、ロランはシャルル王から賜ったもので、切れ味が大変鋭いのはもちろん頑丈さも素晴らしい。
ロンスヴァルの谷でピンチに陥ったロラン。デュランダルが敵の手に渡ることを恐れて岩でたたき割ろうとしたところ、岩が砕けてしまったそうです。
フランス南部の町ロカマドゥールには伝説があり、ロランがこの土地に逃れてきたときに、デュランダルを隠そうとして壁に投げつけたところ岩を引き裂いて途中で止まった、とのこと。
上記写真のように現在でもデュランダルを見ることができるそうですが、どうやらレプリカのようです。
15. パーシュパタアストラ(インド神話)
パーシュパタアストラは別名ブラフマシラス(梵頭)ともいい、ヒンドゥー神話の神シヴァが保有する武器。
この武器は決まった形状がなく、シヴァの目や言葉、意志といった形で力が発露する場合もあるし、弓といった物理的な形をしている場合もあります。
なぜこれが最強であるかというと、いったんパーシュパタアストラが力を発揮すると、「この世の生きとし生けるものと、ありとあらゆる創造物は消えて無くなる」。シヴァは宇宙を滅ぼす際にこの武器を用いるのだそうです。
叙事詩マハーバーラタの登場人物の一人アルジュナは、シヴァの信頼を得てパーシュパタアストラを借りることができた。パーンダヴァ家の三男であるアルジュナは、王国を乗っ取った憎きカウラヴァ家を打倒すべく、パーシュパタアストラをはじめとした神の武器を使って戦いを進め、ついに宿敵である異父兄カルナを倒すことができたのでした。
まとめ
神話って本当に面白いですね。
我々が普段馴染み深い漫画やゲームにもよく現れるストーリーが満載で、「あ、あの話はここが出元だったのか!」と分かるのも楽しいものです。大人の知的快楽といったとこでしょうか。
それにしても「絶対壊れない」「神が授けた」「その剣で切ったら治癒できない」 など、特定の文化を超えた普遍的な文脈が見られるのがとても興味深いです。
人間が武器に対して期待した思いや事柄が透けて見えてきます。
参考サイト
"25 Legendary Mythical Weapons Which Shaped History" list25
Thuận Thiên (sword) - Wikipedia, the free encyclopedia
Manannán mac Lir - Wikipedia, the free encyclopedia
Durendal - Wikipedia, the free encyclopedia
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