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優しい気持ちになりたくて読んだ本の話

読書をする目的は、優しい気持ちになりたいとか、感動したいとか、何かしら自分の感情を揺らしたい衝動にあると思う。あふれるコンテンツの中から、自分の時間を削って読もうとするには理由があるのだ。

寺地はるな著の「ガラスの海を渡る舟」を読もうと思ったのは、優しい気持ちになれるというネットの評判がきっかけだった。育児と仕事の両立の疲れた日常の中で、読書することで優しい世界に浸りたいと思ったのだった。

ガラス工房を営む兄と妹のお話で、性格がまるで違う二人の成長物語のように感じられた。それぞれが心に傷を抱えていて、ガラス工房を二人で営むことで傷を少しずつ癒やし、分かり合えなかったはずの二人の距離が近くなる兄妹愛が描かれている。

この物語はガラスの骨壷をめぐり、主人公たちに関わる多くの人の死について語られている。身近な人の死を通じて、残された人たちがどのように生きて、先に亡くなった人たちとの関係を築いていくかについて提案が示されている。

読者の多くは身近な人の死を経験したことがあるだろう。人の死は喪失感と悲しみを与え、心に傷を残す。その傷とどう向き合っていくかについて考えさせられる内容だった。

前を向かなければいけないと言われても前を向けないのというなら、それはまだ前を向く時ではないです。準備が整っていないのに前を向くのは間違っています。向き合うべきものに背を向ける行為です。

ガラスの骨壷をお店で受け取り、亡くなった大切な人を想って泣くお客さんに向けて兄の道が言ったこの言葉は、普遍的な心の傷に対しても当てはまることだと思った。作品の中には、真っ直ぐで融通が効かないながらも誠実な道の言葉によって救われるシーンがいくつもあり、読んでいて心が温かくなる経験をした。

感情との向き合い方、人との付き合い方、愛されること、守られること、守っていくことについて、道と妹の羽衣子のやりとりで優しい提案を見せられているような気持ちになった。

妹の羽衣子については、特別な自分になろうとして一生懸命生きているのだけれども、感情に振り回されて泣いたり怒ったりして、見ていてイライラするキャラクターだった。兄の道の対比として良いキャラクターではあったけれども、彼女の兄に対するイライラが読んでいて苦しく感じられた。物語を通じて成長していく妹の心の在り方に安堵感も経験できたが、一環として妹というキャラクターに毒があったように受け取った。

読んでいて優しい気持ちになれたかというと、しんみりと、そうだよね、そういう考え方良いよね、という穏やかな心になれたような気がする。普遍的な心の傷にそっと寄り添うような作品であったと思う。

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