結婚の奴 読みました

能町みね子さん著。
軽やかな文体でスルスル読めてしまった。

とっても面白かったです。

恋愛感情抜き、フケ専デブ専のゲイライターと結婚するまでの過程が綴られてるのですが、ずっと不思議な感覚で読んでたんです。

似てる・分かるという感じと、違う・理解はできる気がするが共感はしないって言う感じが境界線ない感じでふわふわ漂ってる。突き離しもしないし没頭するのとも違う変な感覚。


サムソンさんとの距離の縮め方も、恋愛脳のわたしからすると「まるで恋愛のソレ」だけど、その間に一切の恋愛感情はないと言う。
お互いが相手にとって絶対恋愛対象にならなくても心地よい存在と思うのも一種の「愛」なんじゃないの?と思う気持ちと、そういう曖昧なものを敢えて言葉や既存の価値観みたいなものに当て嵌めて安心しようとしてる自分が垣間見えて、そんな自分にちょっと嫌悪感を抱いてみたり。


『料理や洗い物に手を出した方が「彼女」らしいとか母性があるとか、そんな腐臭がする考え』
って一文もかなりドキリ。
見返りのない好意で家事をする分にはいいのでしょう。でもそれをする事で「彼女」の役割を演じてしまうと言う一種の浅ましさみたいなものが、自分にもあったんじゃないかと突きつけられた感じがあって。

「別に好かれるためにその役割演じて何が悪いの?」って考え方もあると思う。それはそれでいいと思う。

でもわたしは多分それに違和感がある。なのにそれをみないフリして多分演じてしまう。そう言うところがあるっていうのを、すっごい細い針でチクリと刺される。


フレッシュネスからリキッドルームまでの件にしても。
言うなれば、自分の目的のために相磯さんを利用してるのに、多少の罪悪感は感じながらもそれすらも正当化してお付き合いをしてる。で、目的が果たされ我にかえったら別れる。
埃臭くてむわむわ、ジトジトした展開なのですが、ここの能町さんの思考は自分にも身に覚えがあることで、わたしが目を逸らして自分は悪くないって思いたかった事を、冷静な文章で「お前の行動は自分本位だった」って提示されているように感じた。でもだからって責められてる感じでもない。

能町さんとの差異で自分という人間が浮き彫りになる。自分の影がぼや〜って出てくるし、嫌な面も見えるけど不快じゃないのよ。不思議。


雨宮まみさんのくだりは結構辛かった。
人は自分の中に色んな矛盾したものを抱えている。自分に対しても相手に対しても。
突然訪れた大好きな人との別れ。悲しみと怒りの元は同じところなのかも知れない。


自分のためにはご飯を作ったり掃除をしたりして自分を労ることはしなくても、誰かがいる事で誰かのためにそれをして「生活」し、「精神」も安定する。「ただいま」といえる誰かがいる安心感。そういう『結婚』。それに恋愛が必須かって言われたら答はNoでしょう。わたし自身は恋愛感情ある人とそうありたいけど、全員がそうであるべきだとは全く思わないし、恋愛感情が伴う事でそこに嫉妬だったり束縛だったり、好きな相手なら「こうあるべき、こうすべき」が生じて関係が疲弊するくらいならいっそ全く恋愛感情ない方がよっぽど穏やかだとも思う。

とは言え、わたし自身は恋愛もの全般が好きで、恋愛漫画にときめき、恋愛の曲に共感し、異性を好きになり、そして結婚している。仕事面では多少枠から外れてる部分もあるかもしれないけど、恋愛・結婚面は世間的な価値観に沿っている。

世間的な常識や価値観に隔たりがあっても、そこにコンプレクスがあっても、迎合したらそれはそれで自分ではないと思ってしまう。だけどやっぱり「定型」の幸せはほしくて「非定型」の擬似的な結婚に安寧を得る。プラスしてたまに恋愛じみた経験がスパイスとしてあったらgoodと言う能町さん。

わたしとは違う価値観。

元々違う人間なんだから、価値観なんて違ってて当たり前で、理解できないような考えをそれぞれ持っているのが当たり前で。

でも違うって前提があるからこそ「分かる」とか「その考え好き」とか、「そこは同じかも」っていうところがなんとなく愛しく感じるのかも。

赤裸々に語られる分、自分という人間に直面する。能町さんと自分の「違う」「同じ」も「分かる」「わからない」は明確になくって、入り組んでいるような、境界が曖昧なような、でも意識すると却って自分がはっきりするような、そんな本でした。

エッセイってどっちかっていうと、完全な他人事か、すんごい共感するかのどっちかだから、ホント変な感じ。

取り敢えず、

自分とは違う価値観で理解出来ないところあるけど、分かる事もある気がする。何にせよ何を選んでもあなたが幸せならそれが一番だわ。

って、お互いが言える人生が良いよね。って思いました。


相手に自分の価値観を押し付けようとするのは、結局自分の価値観を肯定したい=自分だけじゃ肯定できない弱さがあるからなんだろうな。

自分の価値観が大事だから、相手の価値観も尊重できる。

そんな人間になりたいなぁ。

でも理解できない、理解したくない、腹立たしい考えや価値観は受け入れないという権利もあるわけで、そういうところは自分が不快にならないようにうまい具合にザクザク切り分けよう、などとも考え。

そうすると、逃げ恥の沼田氏の台詞はやっぱり好きだなぁというところに落ち着きました。

脳味噌垂れ流しで描いてると、着地点が分からなくなるなぁ。

取り敢えず、テレビやTwitterでお見かけする能町さんは元々好きでしたが、文章も好きだなぁと思ったので、他の著書も読んでみたいと思いました。


おわり。


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