見出し画像

#07 玉木と酒井。それぞれの原点からの歩みとコンビネーション。

2018.07.01

常識に囚われない。既存のセオリーに委ねる事なく自らの資質に忠実に方法論を追い求め、持てるチカラを最大限発揮してゆく。玉木と酒井に共通するポイントだ。
tamaki niime誕生以前から、相反する互いを理解しようと努め、認め合い・補い合いつつ共に進んできた二人。そんな彼らのこれまでの歩みとコンビネーションについて今回は訊いてみた。先ずは玉木に、自身のモノづくりの原点から振り返ってもらおう。

― 小学生の頃からご近所のパタンナーの方に教えて貰っていたと聞きましたが。

玉木新雌
「服づくりは子供の頃から好きで作っていて、将来的にも自分でやりたいというビジョンはあったけど、その頃はまだ具体的じゃなくて。自分の思い描いている服を作るにはどうやったらいいんだろう?ってなった時に、やっぱりパターンが出来ないと作れないし縫製も出来ないとダメだから、そこはもう技術だと思ったので、その技術を手に入れたいと。何か目標を立ててゴールまで走る、これをやろうと決めてやり通す。そうゆうのは好きだったから。実家が洋服店で周りに服が沢山ある環境だったので服に対しての洞察を自分なりにやっていたから、この素材は着心地の良い素材なんだ、このデザインは着心地の良いデザインなんだという事を断片的に分かる様にはなって。じゃあもっと良くするにはどうするかとなれば、もう既成のものじゃなく自分で作らなきゃと。作るためにはどうするか?というとパターンが引けなきゃいけないんだ、縫製が出来なきゃいけないんだ、ということが分かってきて。それを身に付けるためにはどうしたら良いか母に相談したら、知り合いのパタンナーさんがいるから来てもらおうかとなって、教えてもらって。何かをするために必要な手段を知り、それに興味を持って学んだって感じです。」

子供時代から既に明確な目標を設定しそこから逆算してどうすれば実現出来るかを考えていた様子が伺え、ここにも玉木の非凡さが感じられる。また自分の資質を見極める的確な視点も早い時期から備えていた。

玉木
「ただ、デザイン画を書くのは得意ではなく、デザイナーではなくパタンナーだったり服を構築する方を仕事にするんだろうなとはぼんやりと思ってました。0から1を生み出せない、何もないところから何かを創造出来ないという意味で、私の場合は何でもいいからデザイン画描いてって言われても全然何も浮かばない。この服のここをもう少しこう変えたら良くなるからパターン修正しようとか、この生地をこっちに変えたら強くなるんじゃないかとか、そうゆうアレンジを考えるのはすごく好きだったので、デザイナーじゃなくてパタンナーの仕事をしようと。コミュニーケーション能力の乏しさも自覚していて。絵を描くというのも、ひとつのコミュニケーションツールでしょ?こうゆうデザインを作ってくださいって人に伝えるところが劣っていたからこそ、自分の手で創りあげなくちゃいけないという必要性が生まれたのかも。最初に播州織でモノづくりを始めて職人さんにお願いした時にも、コミュニーケーション能力が乏しいし、結局のところ自分でやったほうが早いなって思って、結局自ら力織機を操る事になった。」

― 自分のアイデアを人に伝える事が…

玉木
「頭の中で想像してるこのグニャグニャっとしたものをアウトプットするのがすごく苦手で(笑)。言葉にするにはそれがすごく複雑だからなのかもしれないけれど。頭の中では何となく3Dでぼんやりとはカタチになってるんだけど、それを女性モデルが着たデザイン画という2次元に落とした時に、すっごく安っぽく見えてしまって。違う!こうじゃない、みたいな。そこにすごくジレンマがあった。」

― 頭の中のイメージを表現するのに、デザイン画という手順を踏むよりももっとダイレクトに、自ら生地を使って試行錯誤がしたい。それが玉木流の“実験”なのでは?

玉木
「そうなんですよ。デザイン画にするとなんか違うってなるから。じゃあ一度つくってみて、やっぱりちょっとボリュームが違うなとか、そうやって自分の手で修正をかけながら出来上がったモノが頭の中のイメージに近いのなら、その方が良い。」

― デザイン画を描くという既存のやり方を取っ払ったというか。

玉木
「自分にとってはそのやり方がベストではないと思った。絵を描けないところがすごくネックだというのはあったんですけど、その部分を担ってたのは酒井ですね。」

酒井義範
「うん。」

玉木
「専門学校時代、彼は学生ではなかったけど私が課題をやってる時に隣にいて、私が不得意な絵が彼は上手だったんですよ。少しのニュアンスを伝えるだけで描いてくれるという。すると私が自分で描くよりも、あ、それそれ!っていう出来になる。彼に絵のセンスがある事は知ってたから、やり方を教えてあげて、やってみたら?といって。私も描かなきゃいけないから一所懸命やるんやけど、私が描くよりも彼の方が上手やから、課題のテーマだとかこうゆうデザインが良いと思うんやけどってぼんやりした事を伝えるとこんな感じ?ってサッと描いてくれて。」

― その時点で既にキャッチボールしながら仕上げてゆくという、今に繋がる良いコンビネーションがあった訳ですね。

酒井
「一から十まで説明するってゆうのは無かったよな。」

玉木
「ほんまやな。」

酒井
「要点で掴むよな、お互いに。ニュアンスで。別に筋道立ててどうのこうの説明しなくても要点だけ言ってくれたら。」

― パッと簡潔に。

酒井
「それこそショールが出来て、僕が玉木にどうする?って訊いた時に、全国47都道府県の老若男女に広めたい。そのあと世界へ行きたい。以上。それだけ。要点だけ聞いてあとは僕が頭の中でそのための方法を構築する。これまでずっとそうです。」

― “忖度する”とかじゃなくて、直ぐに玉木さんの意図が理解出来て、方法論に繋げられる訳ですね。

玉木
「私はコミュニーケーション能力無いけど彼はそれが高いので、私が発した単語を紐解いて、自分の中で構築するんやろね。」

酒井
「今でも僕はそんなに本を読まない方なんですけど、玉木に読んでもらって、要点だけ教えてって伝えて、後で要点だけ聞いて、全体像を掴むという。そんな感じやな、いつも。」

玉木
「本を読んだ後でそれを彼にアウトプットする事で私も更に自分の中に落とし込めるじゃないですか。ただ読むだけだと単なる情報でしかないので、自分にとって必要な部分を整理していくっていう作業がしたいんですけど、その良きパートナーというか。その本で気になったところを私がバァーって羅列する、そこからディスカッションして、この本はこうゆう事が言いたいんだ、じゃあウチの会社にとってはこうゆう風に活かせるよね、そうゆう流れを経て最終的に着地することが多いです。」

― その辺りは以心伝心というか、掛け替えのないコンビネーションというか。

玉木
「そういう意味ではお互いの目指す方向性は本当に似てるんやと思うけど、持ってる能力が全然違う。私は本を沢山読むとか苦じゃないし、どんどん入ってくる情報の中から何が大切かってゆう事を抽出して自分に落とし込むっていう作業がすごく好きやから。それをある程度の整理までは出来るんやけど、じゃあtamaki niimeにとってこうする事がベストだよね、というところまでギュッと精査して腑に落ちるところに持っていくって作業は私一人よりも酒井とやった方が、もう一段二段高いレベルで落とし込めるという。せっかく本を読んだからにはそれを自分たちの糧にしたいと思うから。」

日々思考し、自らに問いかける事を習慣とする玉木。物事の本質をパッと掴む酒井。意見を異にし口論も辞さずに議論を尽くす事もあれば、お互いの秀でた能力を認め合い、瞬時に理解し合える関係でもある。

玉木
「私はずっと考えてるな。なんか理由付けが欲しいんやな。生きる理由とか。酒井は溢れる情報の中からピンポイントで本質を見つけ出せる。私はそこが不得意だから。多分いい情報なんだろうなと思えるものから、彼は本当に原石となるところだけを取り出せるというか。そこはセンスやと思うし。もちろん役割的に読書以外に世の中の情勢や業界の動向を知る事だったり、私よりも圧倒的に情報を仕入れている訳だけど、そこら辺のアンテナの張り方とかある意味気持ち悪い。」

― 素晴らしいというより、“気持ち悪い”(笑)。そこは情報選択の精度というところですか?

玉木
「私も知りたい事はとことん調べたい性格だけど、より良い情報を得るための彼の調べ方は半端じゃない。モノづくりする上での掘り下げは私の方がすごくやるけど。私はtamaki niimeにとってプラスになる事だと思えばすごく興味を持ってゆくけど、一般的な世の中の情報はあまり興味ないってゆうか。情報って知ろうとするとすごく労力使うじゃないですか。そこの時間がモノづくりするには勿体無いと思ったから。でも彼は自分自身がモノを作る訳じゃないからこそ、情報をしっかりと掴み、世の中の動きがどうであるかを見極めた上でブランディングしなければいけないから、情報を収集するって事に関しては…気持ち悪い。」

― その情報収集力はショールで行くと決まり、ショールを軸にブランディングを始めた頃からですか?

酒井
「情報集めは僕にとっては趣味みたいなもので。やらなくちゃいけない事というよりは空気吸うみたいな感覚。」

玉木
「人観察もそうやし。ブランド観察も。」

酒井
「人を観察することは物心ついた幼少期から、親とか、親が連れてくるおっさんとか相手にやってるし、どうやったら親に怒られないか、どうやったら欲しいものを買ってもらえるかをバランスを観ながら立ち回ったり。純粋に母親に贈り物を届けたり、自分にとって大切な人を喜ばせる事も好きでした。」

玉木
「どうやったらその人が喜んでくれて、こっちを向いてくれるか、自分が買って欲しいものがあったとして、そのためにはどう動いたら良いかを考える。それが酒井の天性とするなら、今のブランディングというところは本当に向いているんやと思う。どうやったらこのブランドが面白い形になるか、っていうところを観察しながら方法論を導き出す。」

酒井
「若い頃は友人だとか人との関係性が僕にとっての情報ツールみたいなもので。相手が持っているものをスキャンして、吸収することで自分の中に落とし込んでいましたね。」

― アーティストになりたい、という様なモチベーションは無かったんですか?

酒井
「無かったですね。カッコ付けた言い方をすると画用紙に細々と描いたりキャンバスに描くとか何かモノを創作するのでは無く、僕自身が画材で、自分が動き回るフィールド(世の中)がキャンバスみたいな。そこで僕がバァーっと立ち回っている動きが結果的に具象画なのか抽象画なのかは分からないけど絵になってるのかなと。」

― それが酒井さんにとってのアートの表現になっていると。

酒井
「そうです。僕は己れの身体や言葉を用いる自分の表現能力を高めていった。自分自身を高めるためにどうゆう人と繋がったり、どうゆう情報を得るか、という事を常に考えてました。」

― 酒井さんにとっての表現行為を突き詰めたところが今のtamaki niimeにおける役割であるというか。

酒井
「僕自身が、作品なんやと思います。それはまだまだ停滞してないし、まだまだアップデートっていうか、アップグレードしていくやろうけど。」

― 自分の表現行為のひとつの現れとしてのtamaki niimeのブランディングであると。そこには必要性があり、やるからには自らの表現として全身全霊を注力してやると。

玉木
「オンとオフを私たち二人ともはっきりとは分けてないから。かといって仕事のために自分の人生を犠牲にしたいとも思ってないし。自分の人生を楽しみつつ、そのための手段がブランドだと思ってるから、そういう意味では私の楽しみ方と彼の楽しみ方は道具が違うだけで一緒なんやと思う。その結果ブランドにとって良いことであれば、全て良しという。」

― そこは徹底してすり合わせをして…

玉木
「闘いですよ。」

― 妥協せずに二人の間で意見を闘わせ落とし処を見出してゆくという。

玉木
「ショールに行き着く前のまだ葛藤していた頃、善か悪かとか、私は白黒ハッキリつけたい性格やったんですよ。私の中では私のやり方が正しいと思ってやっていたけど、あ、私が絶対じゃないんや、と酒井によって初めて気付かされたというか。大概皆んな闘うのが嫌やから、もういいか、ってなるじゃないですか?わかったわかった、あなたの言う事が正しいよって思ってもないのに言うのが解決策だったりするでしょ?相手を言いくるめて勝ち誇ってた自分もいたりした中で、それが駄目だと気づくきっかけをくれたのが酒井だったというか。いくら自分が“正論”を言ったって、いや違うだろって、彼なりの“正論”が100%のチカラで返ってくるから。あ、こんだけ真っ向から違う考え方をぶつけてくる人がいるんや、ってゆう事を初めて知って。私は人に対してあまり興味が無かったからこそ、人の考え方なんてみんな一緒やろ思ってたんですよ。とにかく酒井のおかげで、世の中の当たり前(常識)自体がナンセンスなんやと気づけたというか。私にとっての当たり前を当たり前じゃないとする人やから、そうか、私が正しいと思ってる世界なんてまだまだちっちゃいなぁ。って気付かされました。」

酒井
「そやなぁ、僕は常識なんてもんはそもそも糞食らえやったんで、逆に玉木に世の中の原理原則、ルール的なことをしっかりと教えてもらえたところがあります。」

玉木
「まるで別世界にいたもんな。私の当たり前と彼の当たり前がまんま全然すり合わなくて。お互いが知らない世界の情報を提供する事で、一応共有が出来たから、あ、世の中にはこうゆう世界があるんやってお互いが知り得たから持てる情報量も倍になったし。その上でもっと可能性があるかもしれないと、どんどんどんどん世界が広がっていったよな。脳の中を一緒に覚醒していってたって感じかな。」

玉木と酒井。相反する際立ったふたつの個性が掛け合わされる事で、tamaki niimeの可能性が何倍にも広がっていった。

酒井
「表現方法の違いはあれど、究極僕らってたぶん、“哲学者”なんやと思うんですよね。自分たちの考えをどれだけ掘り下げられるかとか、高められるか、幅を拡げられるかっていうところをすごく…(玉木に)毎日やってるよな?」(玉木頷く)

酒井
「それがたまたまブランドという表現なだけであって。それをいわゆる哲学者みたいに文章化したり論じようとは思わないですけど、絶えず何かしらやってるよな、お互い。」

玉木
「だから本だったり映画から得る新しい情報や考え方を、どう思う?って議論するところで、自分たちのこれまでの世界を更に、こっちもありだ、こうゆう可能性もあるよねと広げていってる気がします。そうやって、このtamaki niimeというブランドで実現可能な事に落とし込んで。じゃあこうゆう事も出来るね、こうゆう事もやっていけば面白いよね、ってゆうのが、例えば野菜づくりであったり食の試みであったり、どんどんどんどん増えていってるんですよね。」

書き人  越川誠司

https://www.niime.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?