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認知症日記(10) 認知症とお金の問題。銀行で「自分、認知症なんですよ」って言わないで、って言ったのに。

お金のことは夫にすっかり任せきりだったけれど、夫が軽度の認知症だと分かり、やっと通帳を見せてもらうことにしました。すると、通帳が10冊!
「なんで10冊?」
驚く私に、
「だって、銀行が潰れたら、保証されるのは一千万円までだから」
と、夫。
しかし、残高を見ると………。要するに、解約が面倒だったんだなあ、と了解しました。とんでもなく昔の、そして遠い土地の、微妙な残高の通帳たち。

保険関係はさらに謎でした。
医療保険、火災保険、自動車保険、そして生命保険っぽいもの。書類はバラバラで、契約内容も解読できないし、夫本人も内容を忘れているというのです。

しかも、facebookで、「認知症の親の銀行口座が凍結される前に」みたいな広告記事が目につき、えっ? 預金凍結? と、ぞっとしたのでした。

ともかく、現状を把握しなくちゃ。
そんなとき、銀行から、「お持ちの〇〇(←忘れたけど、年金か何か)の契約内容のご説明をします」という通知が届いたので、行くことにしました。

契約者はもちろん夫。
なので夫には、
「銀行の人に『認知症と診断された』って言っちゃダメだからね」
と何度も念を押し、一緒に銀行に行きました。
この頃はまだ、夫の認知症も、ほんとに初期だったのですけれど。

コロナ禍だったので、別室に通され、なんだか落ち着いて話しました。銀行の方も親切だったので、お金のことを整理して、コンパクトに、かつクリアにしておきたいのだと伝えました。夫も今よりかなりしっかりしていたので、けっこうしゃべっていました。

と、すっかり寛いだ夫が、
「いやあ自分、認知症なんですよね」
と、言ってしまった。
一瞬、場が凍りつきました。慌てて私が、
「初期なんです。ちょっと心配だなと思って、一応、病院に行ったら、『初期の認知症ですね』って言われて………」
すると、銀行の方も、
「そうですよね。全然、しっかりしていらっしゃいますものね」
と、とりなす。
私が、
「ほんとに初期なんですけど、診断書とか、もらったほうがいいですか?」
と尋ねると、銀行の方は慌てて、両手で空中を押さえるような仕草をして、
「いえ、何もしないでください」

かくして、本格的に「ほんとに認知症になった場合」に備えることになったのです。この調子では、他の銀行に行ったら、夫は何を言い出すか分からない。ここでバレてしまったからには、もう、この人たちに頼るしかない! と思いました。

事情を話し、後日、謎の保険証券一式も、通帳も見てもらいました。
(ちなみに、銀行の方は二人いらっしゃり、信頼できると判断しました)
そうやって、証券を解読してもらい(さすがプロ)、「これは勿体無いから解約しないほうがいいです」とか、「これは解約してもいいでしょう」とか教えてもらい、契約を整理しました。

認知症にまつわるお金の問題は複雑みたいです。
ただ、いったん預金が凍結されると、「成年後継人」が決まるまで、お金は下ろせないらしい。しかもこの、成年後継人の使命は「預金の名義人の利益を守ること」なので、家族が思うようにお金を使えないこともあるそうです。
「認知症の親を旅行に連れていきたいから、お金を使いたい」と言っても、却下されることがある、とか。

うちは子どもがいないので、むしろお金だけが頼り、というところがあります。私は体力、精神力ともに自信がないので、受けられるサービスは受けたい。

そんなわけで、家族信託の口座(たぶん)を作りました。そこに入っているお金は、あらかじめ届け出ている家族が「銀行に」申し入れれば、預金を引き出せるというもの。
(実は、仕組みが完璧には分かってないんだけど、そこまで手が回らない)

あれから、3年くらい経ったかな? 夫の認知機能はますます怪しくなったけど、なんとか暮らせています。
生活費は、銀行で作った「家族カード」で夫の口座からATMでおろしています。

先日、デイサービスの施設の方が来たので、預金の凍結について、ちらっと聞いてみたら、「うちの利用者さんには、そういう方はいらっしゃいませんよ」とのことでした。「聞いたことないですねえ」と。

あと、銀行に行って感じたのは、窓口の人も、へんなこと(多額の現金をどこかに振り込みとか)でない限り、「あ、ちょっと怪しいな」と感じても、フォローしてお金を降ろさせてくれるようだ、ということです。そりゃ、そうですよね。
ただ、本人がタッチパネルも押せなくなると、ATMでの引き出し限度額を超えたお金を降ろすのは、難しいのかもしれません。

暮らしに困らないくらいの貯蓄をしていた夫は偉い、と思いました。
けれど、少しばかり、使うことも考えて欲しかったなあ、と思うのは、贅沢でしょうか?
「自分に投資する」という言葉は好きではないけれど、夫ももっと、趣味や運動などをやっておけば良かったんじゃないかな、と。


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