秋桜
秋桜をこの前さっちゃんと買ってきた花瓶に生けたら玄関に色彩が加わった。
普段は茶色と白色しかない場所にピンクとか赤が追加される。
それだけで人間の心って簡単にほんわかするのだから、
単純だね、人間て。
単純な、心だね。
僕の心は純単純と言っていいくらい単純だから、良いことがあれば嬉しくて、悪いことがあれば悲しくなってしまう。
ここ数日はどうも気持ちが塞がっていて、手は吊り革を握っているし、眼は外の景色を眺めているのだけれど、実感が無かった。
何を握っていて、何を見ていたのか。
それなのにさっちゃんと久しぶりに逢えるとなって乗った電車では、左手に吊り革、右手ではさっちゃんに見せたい新刊がずっしり入った鞄を握り締めてる実感がひしひしするし、外の景色は細部まで見えた。
河川敷の結構な部分には秋桜が咲いていた。
それすら見落としてただなんて、普段どれだけ何も見ていないのやら。
さっちゃんと会った帰り、その大部分秋桜な河川敷に立ち寄って秋を少しだけ摘んだ。
その秋が花となって今玄関にある。
あえてさっちゃんには秋桜のことは内緒にしていた。
今日のLINEのひとネタにしたかったから。
「この前買った花瓶に秋桜生けてみたよ」
会話が続くように短めにLINEする。
さっちゃんから返信がきて、
また一つ心がほんわとした。
おしまい
ここまで読んでいただきありがとうございます。