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日本で一番小さな県で育まれる愛のサイズ【八話】【創作大賞用】

突然だけど少しだけわたし視点でこの物語を語らせてほしい。

わたしとは犬のわたしのことである。名前はもうある。しかも二つもある。

この家に連れてきてくれた幸助はわたしのことを、わー坊と呼ぶ。

幸助の机の上にあったこの県名産の和三盆糖でできた金平糖を幸助が目にし、

「犬と言えばワン、それと和三盆を混ぜて、わー坊ってのはどうかな。うん、良い。よろしく、わー坊」

そう言ってわたしの顔を撫で回してくれた。

わたしも結構気に入っている。

だけど幸助と同居している祖母は幸助の前ではわー坊と呼ぶが、わたしと二人きりのとき、祖母はわたしのことをキヨシと呼ぶ。

最初はこの人間味ある名前が苦手だったけど、どうやらキヨシとは祖母の夫の名前だとわかってからは、この名前にも温かさを感じている。

わたしのお世話の殆どは結局祖母がしてくれている。

毎日食事を与えてくれ、毎日金比羅山にある御本宮まで参拝がてら散歩に連れて行ってくれる。

御本宮まで785段もあるのに祖母は平気な顔して登り降りするから身体は健康なのだと思う。

だけど祖母は最近同じことを繰り返し言うようになってきた。物忘れも増えてきている。

この前テレビの中の人が、そういう症状は認知症の初期症状として現れるから気をつけた方が良いと言っていた。

このことを幸助にも教えてあげたいのに、わたしはどうやら、わん、としか発せないようだ。

だから手遅れになる前に幸助早く気づいてやってくれと思う。

あと祖母は本当に幸助とキヨシのことが大好きだ。

わたしに話する内容のほぼ全部が幸助かキヨシのことだ。

「キヨシさんがおらんくなって、正直どうしようかと思ってたんやけど、そんな時に幸助が帰ってくる、一緒に住もうって言ってくれてばあちゃん涙出るくらい嬉しかったんや」

そう話す時の祖母の表情はとても穏やかで、わたしもこの家に来られてよかったなと実感している。

それでも時たま淋しげな顔をする時もあって、そんな時はわたしが励ましてあげている。

わたしがずっと側にいるよ、

大丈夫、大丈夫だよ、と。

もちろん祖母にはわんわんとしか聞こえていないんだけどね。

さあ、そろそろお腹も空いてきたし、話を幸助たちに返そう。

今日は珍しく幸助がわー坊に餌をやりにきた。

わー坊は相変わらずわんわんと鳴いている。

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