Kの真実
ミーミーさんのこちらの記事の小説が面白くって、読んだ瞬間に続きを書きたい気持ちに駆られました。
そのテンションのままコメント覧で、続きを書いてみていいか尋ねてみたら快諾してくださりました。
前半はミーミーさんが書いた物語。後半は僕が書いた物語となっております。書いてて、とっても楽しかったです。
良かったらミーミーさんの物語と合わせて読み進めてくれると、嬉しいです。
それではどうぞ。
◇
ある日、友人のKから手紙が届いた。
彼は僕の親友で唯一無二の存在だ。手紙にはこう書かれていた。
〈親戚のおじさんに聞いた話なんだけど、学校に徳川埋蔵金が眠っているらしいんだ。財宝等の他にも剣や鎖も眠っているという。古い器や懐中時計も!それを僕と君とで一緒に探さないか?〉
すごく面白そうだったので、僕はKと学校に眠る徳川埋蔵金を探しに行くことにした。
待ち合わせ場所に到着したら、Kのほかに宇宙人と叶姉妹がいた。
筋肉ムキムキの宇宙人と叶姉妹。
Kが言うには
「宇宙人は月面の探査に慣れているし、埋蔵金がどこに埋まっているかにも詳しいと思うんだ。その智恵を貸してもらおう。情報はあればあるだけ良いし、叶姉妹はお金持ちだから、金目の物のありかを見つけだせそうだろ!」
宇宙人と叶姉妹とKと僕。
仲間や情報を得たかったKの気持ちもわかるが、はたから見ると怪しい組織だ。
「セッカクダカラキネンサツエイシタイ」
宇宙人が急に喋った。意外にも友好的な宇宙人にほっこりしてみんなで記念写真を撮った。
「さぁ!出発だ!」
Kが妙にヤル気満々の声をあげると、突然、激しい雨が降りだした。
「こんなに雨が降っているんじゃどうしようもないわ。ちょっと休憩していきましょう。すぐそこに渋くておいしいお茶を出すお店があるの。すごく癒やされる空間よ」
叶姉妹の姉がそう提案した。
まだ集合して記念撮影をしただけだというのにいきなり休憩かよと思ったが、これだけ激しい雨では仕方ない。
みんなで歩いて店へと向かう。
途中、宇宙人が犬の糞を踏んだと言って騒いでいたが、無視して店へと急いだ。
叶姉妹の姉がすすめる店に到着すると、Kがいち早く5人分の席を確保した。
みんなで着席し、店員さんを呼ぶ叶姉妹の妹。てっきり渋くておいしいお茶を注文するのかと思ったら、
「私今日が誕生日なんです。だからみんなでケーキでお祝いしてくれませんか」と言い出した。
すると店員さんが
「誕生日にとても残酷な話なのですが、今うちの店にはケーキもお茶もないんです。あるのはこれだけです」と冷凍みかんを差し出した。カチカチの冷凍みかんがテーブルに山盛り。
みんなで冷凍みかんを食べる。
雨で濡れた体に冷凍みかんを食べすぎて僕たちは凍えた。
そこで宇宙人が
「なんだかとても眠くなってきた。もう星に帰って眠りたい」と言い出した。
宇宙人は、自分の分の冷凍みかん代にと小銭をKに渡して帰っていった。
「せっかくの誕生日なのに、冷凍みかんだけ出されても……」と、叶姉妹の妹が渋い表情を浮かべながら発したと思ったら突然Kの頬を殴った。
Kは最初のうちは我慢していたが、
「喧嘩はいけないよ」と、僕が慌てて喧嘩の仲裁に入ったところで、頬を真っ赤に染めて、机や椅子を窓に向かって放り投げた。
窓ガラスがわれる。気持ちが爆発したらしい。
僕と叶姉妹の姉は店員さんには謝りながら割れた窓ガラスや転がった机で荒れた店内をきれいに掃除した。
この店には休憩で癒やされに来たはずなのに誰も何も癒やされていない。
僕たちは店を出た。
雨はもう上がっていた。
そこに僕の部活の顧問の先生が自転車で通りかかり、僕に気づくと
「ちょうどよかった。ここらで宇宙人を見なかったか?背は150センチくらいで、鍛えているから筋肉がすごいんだ。たしか藍色のTシャツを着てる。俺の親戚なんだけど、帰ってこないんで探しているんだ」と言った。
先生の声はよく響く。
みんなちょっとだけ寂しい気持ちになって
「あいつは眠くなったので星に帰りました」と伝えた。
気づけば影が長く伸びていた。
運動場に砂が堆積した、いかにも埋蔵金が眠っていそうな場所を見つけたが、もうどうでもよかった。
◇
埋蔵金のことよりも、Kのことが心配だった。
Kがあんなにも感情を爆発させているのを見たのは始めてだった。いつもは、Kが友達の喧嘩を止める立場なのだ。
Kは暴力を振るわれたくらいであんなになるまで怒ったりしない。だから何か特別な事情があると確信し、叶姉妹と別れたあと僕はKを自分の家に招いた。
僕とKを見たお母さんは僕らが雨に濡れてビショビショになってしまっていることに驚き、
「また二人して風邪引いたらどうすんのよ」
と怒鳴り、一人ずつお風呂に入ってくるよう指示してきた。
お風呂から上がると、Kは僕が一昨日着ていたのと同じパジャマを着ていた。
お母さんは「Kくんとこには今日うちで泊まっていくようにいったからね」と言って、温かいご飯と、食後にはガリガリするアイスを出してくれた。
Kはいつものようにそれらを美味しそうに食べていたけど、いつもより口数は少なかった。笑顔も作り物だった。
そのあとKと自分の部屋にきて、やっとさっきなんであんなに怒ったのか聞ける状況になった。なのになぜかそれは気軽に聞いてはいけないような気がして、僕はいつも通りKとSwitchでマインクラフトをした。
少しの時間しか経ってないのに、一日中動き回ったからすぐに睡魔が襲ってきた。そこで二人横並びになって寝ることにした。
普段なら電気を消してすぐに寝れるのに今日はなかなか眠れない。
僕だけ寝れないのかと思ったらKも起きていた。Kはボソボソと話出した。
「今日はあんな感じになってしまってごめん」
Kの声は気まずい雰囲気を覆っていたので僕は努めて明るい声で
「いいよ、いいよ、だけど珍しいね、Kがあんな風になるなんて」
と言った。
そしたらKが続けて喋りだした。
「うん、叶姉妹の妹に悲しい想いさせてしまったのが辛くって、その感情をどこにどうやって吐き出せばいいのかわからなくなって、気づいたら物にあたってた、ごめんなさい」
暗くなった部屋でもKが鼻水を垂らして号泣しているのがわかった。そうか、悔しかったのか。Kはそのあと詳細を語ってくれた。
叶姉妹の妹の誕生日のために、あの店の人にケーキを用意してくれるように頼んでおいた。店員は頼りなさそうに見えたので、昨日も今日の朝もケーキがあることを電話で確認した。店員はその都度
「はいはい、わかってます、わかってますって。だからそう何度も電話してこなくても大丈夫ですよ」
って言っていた。
なのに、いざ言ってみたら、ケーキはない、茶もない、あるのは冷凍ミカンだけだなんて言いやがった。
しかもミカンはカッチカチに凍っている。こんなの美味しい訳ないと思って食べてみたら案外美味しくって怒っていたはずなのに気づいたら冷凍ミカンをたらふく食べてしまっていた。
それでもしかしたら叶姉妹の妹も満足してくれたんじゃないかって期待しかけた時に妹から不満の言葉を聞いて、楽観的な考えばかりな自分を責めたのだそうだ。
こうやってなんでも甘い考えだから駄目なんだ。
そもそも、この店の違和感に気づいた時点で他の店にすれば良かったんだ。しかしそんなことを後悔しても後悔するには遅すぎて、喜んでほしかった人を悲しませてしまった。そのことが悲しくて自分を許せなかったらしい。
そしてKは感情的になったそのままの勢いで更に語る。
「埋蔵金だって本当は無いの知ってるんだ。親戚のおじさんが僕を喜ばせるために嘘をついているってわかっているのに、僕はもしかしたら今回こそは本当に埋蔵金があるんじゃないかって、楽観的に考えて、何度も君を誘ってしまう。その誘いにいつも乗ってきてくれてありがとう。けど本当は君も埋蔵金なんて無いって気づいてるよね」
僕は暗闇で声は出さず首を縦に一度だけ振った。
Kが言うとおり、僕はとっくの前に埋蔵金なんてないことに気づいていた。
そしてKこそが宇宙人で、筋肉ムキムキの宇宙人が元々Kだったことも知っている。
元々のKは叶姉妹なんかのためにサプライズしようとしない。いつも自分のことだけ考えて生きていた。
元々のKはケーキがないと言われただけでブチギレて店員を蛇のようなナイフで脅すような奴だった。
Kは今のKみたいに良い奴なんかじゃないんだ。
だけど、それでも、Kは僕の唯一の親友だった。
僕が埋蔵金があるから探しに行こうと誘うたびに
「またかよ、あるわけないのになんなんだよ」
といいながらいつも学校についてきてくれたんだ。
埋蔵金なんてないことは僕が一番知っているんだ。
そんな嘘をついたのは埋蔵金をKと探している時がとてつもなく楽しかったから。それなのにお前は僕の大切なKを奪い、Kのふりをして生きていこうとすらしている。
なにが「セッカクダカラキネンサツエイシタイ」だ。
そんなのしたくない。
したいのは「オマエノキタナイココロヲコワシタイ」だ。
本当だったら今ここでお前をナイフで八つ裂きにしてやりたいが、その身体はKのものだ。どうやったらKを取り戻せるかはわからないが、必ず僕はKを取り戻してみせる。その方法を見つけるまで僕は今のKのくだらない埋蔵金探しにさえ、付き合ってやる。
大っ嫌いな漢字の勉強だって頑張って、賢くなってやる。
Kを取り戻せるならなんだってする。
僕はそうやって暗闇の中で誓った。
◻︎
その誓いからわずか三ヶ月後、今のKと僕はなんと学校で埋蔵金を見つけることとなる。
そして僕はその中にあった剣をKの背中から貫くこととなる。
その様子を例の姉妹が隠れて観ている。
Kは泣いている。
僕もなぜだか泣いている。
姉妹だけは笑っている。
Kは本当は宇宙人なのか、誰が悪で誰が正義なのか。
その真実を、もう誰も知るすべがない。
おわり
◇
こうやって書くと痛感するのですが、ミーミーさんのように楽しい雰囲気を出すのって難しいです。小説という創作物であってもやっぱりその人の性格が反映されるのです。ミーミーさんの楽しくて優しい性格が物語にも反映されているのがよくわかります。これからもミーミーさんの書いていくものを堪能していきたいです。