秋が好き
秋が好きすぎるんだよね、って口癖のように言う彼は、わたしのことはその秋よりも好きだよ、ってよく言ってくれる。
彼が秋が好きなのは納得できる。
ファッションが好きで、読書が好きで、何より美味しいモノを食べるのが好きな彼にとって、秋は楽園そのもの。
好きな服に包まれ、愛読書片手にスイートポテトを食べている時の、あの、幸せに満ちた顔。
月で表すなら満月。
なに一つ欠けることのない、純度100%の幸福。
彼はそれくらい好きなものが何かわかりやすい。
だから、わたしのことをちゃんと好きでいてくれていることもよくわかった。
それで、きっと二人のこの関係はずっと続いていくと確信していたけど、世の中に確信していいものなんて、殆ど無いことを知った。
彼は大学進学のために上京して、その大学で出逢った子のことを好きになってしまったらしい。
あんなに秋より好きって言ってくれていたのに、彼の好きって、こんなちっぽけな距離によって無くなってしまうものだったらしい。
別れの言葉も無く、共通の友達から聞いた話だから真相すら分からない。
彼に失望しそうになったけど、わたしが勘違いしていただけなのかもしれない、と思った。
秋より好きって言われから、わたしのこと何よりも一番好きなんだなと舞い上がっていたけれど、秋なんて四つの季節の内の一つに過ぎない。
それと同じで、わたしなんて小さな町、小さな学校、小さなクラスの一人に過ぎない。
なんて小粒な世界で生きているんだ。
思い知らされてしまった。
それでも、わたしだって秋がどの季節より好き。
ただ毎年大好きで聴いているあの人の声が、今だけ、いつもより、身体のどこかを突いてくる。
小さな町でも空だけはどこまでも高く広がっていく。
そこに浮かぶ満月がほんのちょっぴり欠けていた。
終
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