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黄金のイルカ

かつて黄金の国と称された此の国にて

イルカは問うた。

どんな人生を望んでいるか

と。

僕はイルカの口元を見ながら答えた。

「ありがとう、と、おめでとう、を沢山贈れる人生が良い」

その答えにイルカは微笑んだ。

その笑みの隙間に大好物の魚を投げ入れてやった、つもりだった。

実際には、魚は弧を描きイルカの頭にぶつかった。

それで

さっきまで笑顔だったイルカは怒った。

すぐさま僕はイルカの両眼を見て言った。

「そんなつもりじゃなかったんだ。ごめんなさい」

そしたら

イルカはすぐに許してくれて、さっきよりも大きな笑顔になった。

「人間は自分たちが優れていると思っている。だけどそのせいで素直に謝ることのできない人間が多くて悲しかった」

魚をモシャモシャしながらイルカは続ける。

「でも君はすぐに謝ってくれた。わざとじゃないのに」

イルカはそう言うと、僕の両眼を見つめ返しながら近づいてきた。

「素直な君のためだ。魚をくれたお礼って訳じゃないけど、君が今伝えたくてウズウズしていることを聞くよ」

...僕が今伝えたいことか。

それは沢山のありがとう、と、おめでとう、と、何個かのごめん、かな。

みんなの俳句大会へのお誘いを快く受け入れてくれて、ありがとう。

短歌への再挑戦への扉をこじ開けられて、おめでとう。

短歌という新しい才能を手に入れて、かつ物語が漫画にまでなって、おめでとう。

最近まで貴方が苦しんでいることにすら気づいてあげられなくて、ごめん。

気づいたところで見守ることしかできないことも、ごめん。

苦しい状況なのにも関わらず参加してくれて、ありがとう。

運営チームに所属しながらも自由に活動させてくれて、ありがとう。

沢山の参加者に楽しんでもらえていること、ありがとうとおめでとう。

ありがとう、ありがとう、おめでとう、おめでとう、ごめんね、ありがとう、おめでとう。

清らかな言葉。清らかな空気。漂う。

突如

イルカは水中に潜り、夜の球体めがけてジャンプした。

球体は金属音を響かせ、金の綿埃が舞い上がった。

着水し、僕の目の前に戻ってきたイルカは言う。

「今この瞬間、君はもう一つの言葉を言いたくてうずうずしてるね」

その言葉は、ありがとう、おめでとう、ごめんね、に匹敵する言葉『ほこらしい』

イルカに心を見透かされた僕は驚いたけど、この『ほこらしい』を述べ始めた。

過去の成功に囚われずに、新しいことを導入し、より多くの人を楽しませた貴方が、誇らしい。

僕にはできないことを助け合いながら実現させていく運営チームのみんなが、誇らしい。

苦しい状況でも僕の頼みならと参加してくれた貴方が、誇らしい。

カーテンが開いた絵をすぐさま贈れる貴方の優しさが、誇らしい。

誇らしい、ほこらしい、誇らしい。

これらの言葉によってさっきまで青かったイルカは黄金色になり、今まで見たことの無い満面の笑顔になった。

どうやら、これが僕たちの、輝きらしい。

終わり(ありがとう)







ここまで読んでいただきありがとうございます。