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小説

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書いた小説まとめ。
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#恋愛

成人式前(ショートショート)

夜明け前に山登りしている一行の姿は、数日温かい日が続いたせいで勘違いして咲いてしまった桜のようだ。まだ誰もが行動していない世界の中で行動していることに違和感を感じる。 なぜ僕らはこんな夜明け前に山を登っているんだろう。さっきまで成人式前の同窓会でかつての旧友達と酒を交わしていたはずなのに。 なぜこうなった。 そんなこと、思い出そうとすれば至って簡単に思い出せた。誰かが言い出したんだ。 「もう数時間したら朝になる。折角だから朝日を見に行こう」 当時からクラスの盛り上げ

おじおじさぎ

もうイケメンには懲り懲りよ。次の彼に最も求めるのは癒し。私を癒してくれる存在はどこ。 そう思いながら、マッチングアプリに出てくる男の人を次々と左に左にスワイプしていく。 こんな心情の時に限って、イケメンばかりが登場してくる。イケメンでなければこのアプリに登録させてくれないのではないかと錯覚してしまう程に。 でも錯覚はあくまでも錯覚であって、真理ではない。 20人左にスワイプした時、待望の光景が表示され、画面に目が釘付けになった。 画面に映し出された人物は、これまでの

満月の夜に現れたのは

10月1日満月の夜。空は快晴で一点の光だけが輝いていた。 その光をぼーっと見つめていると急にその光に吸い込まれる感覚に陥った。そのまま僕は眠ってしまった。 朝起きて少しだけ違和感があった。 なんだか体がゴツゴツしている。 昨日仕事し過ぎたからかなと思って鏡の前に立って、その姿に驚愕した。なんとゴリゴリのマッチョになってしまっているではないか。 驚いて茫然と立ち尽くしてしまうと思いきや、 すぐさまこうだ。 パシャり。 うん、今日も良き筋肉だ。(いや、写真撮ってる

世界一好きな香りは、世界一嫌いな匂い。

私には世界一好きな香りがある。 大好きな彼から漂ってくる香り。彼の側にいると、男の子らしいミント系の爽やかな香りが漂ってくる。 その香りを感じるだけで、私は一日中幸せな気分になれる。 そして本当はその香りを独占したい。でも私は、この想いを彼に伝える勇気が無い。 それでも良い。 ⁂ ちょっとした興味から履修した大学の英語特別クラス。この授業の時、彼はいつも私の隣の席に座る。たまたま同じ海外ドラマが好きで意気投合した。 彼の口から発せられる美しい発音の英語が好き。彼

くもと少女の恋物語

うわーーん ここはとある田舎の交番前 ひとりの少女が号泣している お巡りさんも困り顔だ 場面変わって、一軒屋。 俺はくも あいつと出会ったのは今年の春 あいつのことは友達の蚊やゴキからよく噂を聞いていた。通り名は霧の魔女。目が合ったら最後。得体の知れない霧に包まれて、痛みさえ感じず、気づいたころには天の上らしい。実際、蚊やゴキの身内は何人もその霧の餌食になってしまったらしい。こりゃやべぇ奴がいたもんだ。 そんな噂が広がっていたものの、俺の日常はいたって平和だ。