社会を語れるほどの、何者か。
居酒屋バイトで、一組の夫婦に怒鳴れた。
『うるさいんだよーー』
卓のチャイムが鳴り、注文かと思ったら、クレームだった。
どうやら、アルバイトのお喋りの声がうるさかったようだ。
店内には他の客がおらず、静かだったためだろう。
普段通りの声量で喋っていたら、怒られてしまった。
『すみません、気をつけます。』
配慮が足りなかったなと思う反面、でも居酒屋だよ?うるさいのが普通だよ?と思う気持ちもありつつなんだかなあと腑に落ちなかった。
注意されたからには静かな声で話をする。
体感さっきの声量の半分。
30分後また、チャイムが鳴る。
『うるさいんだよー。』
意識して声のボリュームを落としたのに、あまり意味がなかったようだ。
「あ、ただクレーム入れたいだけだこの夫婦」と内心思って、とりあえず謝っておいた。
確かに私の声は大きいし、通る方だと思う。相手も虫の居所が悪かっただけ、アルコールも入っているし、しょうがない部分があっただろう。
そう思うことで無理やり溜飲を下げた。
そんなこんなで、ラストオーダーを取る時間になった。
普段はアルバイトがオーダーを取るが、マスターの知り合い夫婦ということで喋りつつ、オーダーを聞いてくれるという手筈になった。
ラストオーダーが終わって15分後、チャイムが鳴った。
また、あの卓か、、、。
ここからは臨場感を演出するため、実際の会話調でお伝えする。
客「ラストオーダー聞かれてないんですけど?」
俺「先ほど、マスターが聞きませんでしたか?」
客「普通、アルバイトが聞きにくるものでしょ?」
俺「・・・・・」
客「私は20年前からこの店に通ってるけど、あんたたちのようなバイトは初めてみるよ、声もうるさいし、こっちのすみませんって呼ぶ声が通らないから注文も頼めないでしょ?」
俺「うるさかったのに関しては申し訳ないです、注文はチャイム制になっておりまして、聞き漏らしを防ぐためにこちらの制度に変わっております。」
客「移転前はそんな制度なかった、あんたおかしいよ、こんなんじゃ社会でやっていけないよ?」
その際、客が他の卓を指差して「この店員おかしいよね?」と助長した。
しかしその卓に座っていたのは俺の友達だった。
俺「あ、あの卓は私の友人が座っておりまして、、」
客「あんただけじゃなく、あんたもおかしいよ」
となぜか俺の友人もその客におかしい判定を受けていた。
謎の被弾である笑
(その後、その友人は「なんだあのおばさん」とブチギレていた笑)
「うちの奥さんがごめんねえ、領収書もらえる〜?」と夫が会計をしにやってきた。ずっとキレていたのは奥さんの方で、夫の方は特に何も言ってこなかった。
こいつはやばくない方だ!と安心があった。
これが、典型的なカカア天下かあ、夫も大変だなと同情すら感じた。
俺「はい!領収書ですねー」
夫「いやあ、奥さんがごめんねえ、でもさ、、、」
『でもさ?????????』
一気に不穏な空気に変わる。
「でもさ」という接続詞がまるでオセロのように、
白だと思っていたものが全て黒に裏返される盤面を予期させる。
夫「でもさ、やっぱり君たちのような感じじゃ社会では通用しないからね。」
全然やばいやつだった。
全然大丈夫な方ではなかった。
あの奥さんにしてこの夫ありだった。
俺「そうですよね、勉強になりますーー」
夫「いやいや、本当だからね、てかさ、あの女のバイト呼んできてよ、
あいつにも説教するからさ、だいたいさ、ああいう奴がセクハラだの
パワハラだの言ってくるんだろうなー」
クソ客対応を俺がしている間、裏で作業をしてもらっていたバイトの女の子に話があるとどんどんその子に近づいていく。
俺、決死ののボディーブロック。
「すみません、裏で作業してまして、後で言っておきます。」
体を前に出し、夫の進行を防ぐ。
「勉強になりましたー、ありがとうございます!またお願いします!」
を3度ほど繰り返し、なんとか帰らせることに成功した。
どうやら俺は社会では通用しないらしい。
でも、社会に生きて通用しても、ああなるのであれば俺は社会に通用しなくてもいいと思った。
何が正しいか、自分で考える力が必要だなあ。
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