5月22日『カギョウ』を観に行った


 四ツ橋にある楽屋Aという催し物小屋で行われた、漫才とコントが立て続けに十何本も眼前に現れ続ける『カギョウ』というライブを観にいった。
家を出る前、妻に「誰が目当てで見に行くのか」と問われたので「にぼしいわし」と答えると「出た」と言われ、さらに「ドリンクバーゲン」と重ねると「ええ名前やん」と言っていた。妻はジュースが非常に好きなので、良いバーゲンだと思ったのだろう。
他にも何組かお目当てが居たのだけれど、まあ、列挙をしても気持ちの悪いオタクのようになってしまうので妻に告げるのは二組にとどめた。
「変ホ長調」と言ってもよかったのだが、女性芸人二組、となると妻に何か名状しがたい不安を与えるかもしれない、と思いそこは戦略的に回避した。

会場は照明が明るめで、舞台と客席の距離もそんなにないので、今までにない近距離演芸だった。風穴あけるズのコブラ氏の衣装の質感が遠くて見ながら想像していた感じと違ったりして驚いた。
何組かお気に入りの漫才師が居て、何組か映像でしか見たことないけどきっと好きだろう、という漫才師がいて、そして知らない人たちも居たのだがとっても面白かった。
これだけ出演が居て面白くない組が一組もないというのがすごいし、それでいて芸風がかぶって居ないというのもすごい。みんなあんまり売れていない感じ、というのはなんだか悲しくなるが。あんなに面白いのに。
僕が初めて講談を観に行った時なんて出てくる人出てくる人全然面白くない上に、芸風も似ていた(その日出ていた師匠だけは面白くて、芸風が他の人と全然違った)から打率10割のホームランあり内野安打ありクリーンヒットあり、という今回のバリエーションには驚くばかり。

 上記の妻に紹介した、紹介しかけた方々(偶然にもみなさん事務所に入っていない)で行くと、ドリンクバーゲンさんは『ボクサーになりたい』みたいな漫才。ダイマルラケットみたいだ。
もうどちらがボケでどちらがツッコミかはわかんないんだけど、振り回される方と振り回す方、って感じか。セリフにしたら変なセリフ割になりそうな感じ。無茶苦茶面白かった。中年男性が困ったり怒ったりしているのが全部こんな感じならもっと世界は平和だろうに、と思う。中年男性はこの漫才を見て感情の発露を勉強するべきだと思う。

変ホ長調さんもすごく面白くて参った。
『仮に私が竹野内豊と結婚したら何に気を付けたらいい?』というような漫才なんだけど、100分聞いていたいと思った。少しも展開していかずに、ずっといろんな心配をしていた欲しかった。
竹野内豊とフードコートに行く描写が秀逸で、フードコートの持つ哀愁とか、生活のリアルとかに竹野内豊が埋もれて行って沈んでしまっていた。
後半妙齢女性のリアルがゆっくりとしたテンポで畳みかけられていて、呼吸困難になるくらい笑った。
涙が出た。そんな妙なものをゆっくりと畳みかけられて呼吸困難になるとは思っていなかった。参ってしまった。

 にぼしいわしさんの『スーパーのひみつ』をにぼし氏がいわし氏に語る漫才は僕は今まで見たお二人の漫才で一番好きだった気がする。
やりがいのある仕事、人間味のある仕事を求める側の人間と、はたから見れば人間味の無い仕事をしている人間の内心を対比させたスーパーの裏口での場面の緊張感と見ごたえはもう人情噺だった。にぼし氏の演技が最初から最後まで頗る上手くて素晴らしかった。
漫才は役者人間と漫才人間とのコンビが成功する、って誰かお笑いの偉い人が言っていたような気がする。確かに売れてる漫才師を思い浮かべると大体そうだと思う。納得がいく仮説。
そして、にぼしいわしさんは完全にそうだと思う。
あの、おかしくて、ともすれば超暗い話と、おかしくて暗い、を見事体現した演技を漫才として、笑いとして成立させているいわし氏もすごい。
いいものをみて爆笑できたので、とても嬉しい気持ちだ。

 しかしフリーの芸人というのは大変そうだ。テレビを強力な事務所が寡占しているので、メディアで金を稼ぐということが難しい。
ライブで稼ごうと興行主化していっても強力な事務所の芸人、つまりメディアに出ていて集客力を持っている芸人を看板として使うことはできない。これでは集客をして観客のチケットで生活できるだけの売り上げを立てる、ということが難しい。
しかしフリーではメディアに出ることが難しい。あとは堂々巡りのようになってしまう。
芸人になるなら強力な事務所に入れ、ということなんだろう。特に大阪は。
ふざけるんじゃねえって話である。
どこかで風穴を開けないといけない。
ライブを観に行く人口を増やす。或いは別口で金を集めるシステムを構築する。いくつか方法があるんだろう。
僕の師匠は芸能社会を脱出して特殊技能「講談」を持った「講談師」として社会に参画する。と言う方法で生活を立てている感じがする。
どちらにしても僕にも関係がある話である。
僕はどうしたらいいんだろうか。最近は金を稼ぐことから逃げてはいけないんじゃないか、と思っているので、また真剣に考えてここに書いてみようと思う。

 ライブが終わって妻からのラインを見ると「家に昨日買ったポンジュースがあって嬉しい」との一文。ジュースが好きな妻である。妻にもっと良いジュースも買ってあげられるように、稼ぐぞ稼ぐぞ。
しかしグループ魂のせいでジュースを買ってあげるような男は酷い男のような気がしてしまうなあ。

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