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【企業分析1】良い企業とその必要条件

良い企業とはどのような企業か

・良い企業とはどのような企業でしょうか。
・もちろん、だれの目線で見るかで変わってきます。例えば、

①社会:経済(GDP)の拡大に貢献する、生活の質向上に貢献する、社会課題を解決する
②株主(上場企業・長期投資家):長期で稼ぐ力を向上し、企業価値を高める
③株主(非上場・金融投資家):売却までに企業価値を高める
④株主(非上場・創業家):ステークホルダーへの利益分配を保ちつつ企業理念を達成する
⑤労働者:キャリア形成の実現、企業理念と価値観のマッチ、衣食住+αの報酬獲得
⑥債権者:与信期間の債務支払能力維持、ファイナンスが必要になる成長投資の実施
⑦顧客:解決したい問題に対応した商品の提供、取引期間にわたる短期的な財務安全性
※ここでの企業価値は、収益獲得を通じた将来の資本蓄積に対する期待を指します。企業価値が高まれば市場での株価も高い値付けがされるので、投資家は高いリターンを期待できます。

・他にも立場によって良い企業の定義は変わりますし、全てを満たす企業が最も望ましいわけです。
・ですが、②長期で稼ぐ力を向上し企業価値を高める、という定義であれば、他の定義にも最も汎用性がある定義として受け入れられるのではないでしょうか。
・というのも、経済の仕組みとして資本主義を採用する世界では、企業には大きく分けて2つの役割があるといえます。
①市場において売り手として買い手に価格を上回る価値を提供し取引を成立させること
②資本(お金)を集めて人や生産設備に資本を振り分けることで先ほどの市場での取引を行い資本を増やすこと

○絵にする

・つまり、資本主義社会において良い企業とは、
①継続的に市場において売り手として買い手に価格を上回る価値を提供しつつも一定のマージンを確保できる有利な条件で取引を行うことができる(長期で稼ぐ力を向上し)、
②資本を①に貢献する経営資源に配分しているので、将来も市場取引を継続的に有利な条件で行うことができると期待でき、(将来の資本蓄積に対する期待としての)企業価値を高めることができる
といえるのではないでしょうか。

・そこで、ここでは良い企業を「長期で稼ぐ力を向上し企業価値を高める」企業と定義して、その必要条件を考えたいと思います。

良い企業の必要条件

・「長期で稼ぐ力を向上し、企業価値を高める」ことができる企業とはどのような企業でしょうか。
・先ほどご説明した通り、この定義を分解すると以下のようになります。
①市場において、継続的に売り手として買い手に価格を上回る価値を提供し有利な条件で取引を成立させること
②資本(お金)を集めて、①に貢献する人や生産・販売設備に資本を振り分けることで市場での取引をより有利な条件で行い資本を増やすこと
・ですが、ある企業が特定の市場でガバガバ儲けていたら、当然他の企業も参入して同じように儲けたいと思いますよね。
・そうすると市場では売り手が増えますので、買い手に選んでもらうために価格を引き下げざるを得なくなり、儲けは減ってしまいます。これでは長期で稼ぐことができるとはいえませんよね。
・ですので、他の企業が参入できない・しづらい何らかの仕組み(参入障壁)が必要になる、というわけです。

・参入障壁には、①提供価値に対して他社が提示できない(低)価格を実現する、②買い手にとって替えの効かない商品を提供する、の2つの方向性があります。
・①提供価値に対して他社が提示できない(低)価格の実現については、規模の経済、密度の経済、範囲の経済、経験曲線の4つに分けられます。

規模の経済

・大規模投資を他社に先駆けて行うことで生産・販売数量を増やすことで1商品あたりのコストを抑制し、低価格を実現する方法です。例えば、マクドナルドでいえば、世界レベルで事業を行なっているからこそ、どこでも美味しいポテトを安価に提供できているわけです。

密度の経済

・規模の経済を特定地域に絞ることでコストを抑制し低価格を実現する応用編です。例えば、駅前などに同じブランドのコンビニが集中していることがありますが、これは物流コスト削減を通してコストの抑制を狙っているものです。というのも、コンビニは生鮮食品・惣菜を1日に2~3回・365日配送する必要がありますので、物流コストがかさみがちな業態だからです。

範囲の経済

・複数の異なる商品を提供することで、商品が共有する生産・販売設備のコストを抑制するものです。例えば、コンビニのある店舗でいえば、常に光熱費、人件費など固定費は発生しますので、おにぎりだけを売るより、サンドイッチや肉まんも一緒に売ったほうが商品あたりのコストは抑制できるわけです。

経験曲線

・特定商品の生産・販売を長期間続けることで、労働者のスキルが熟練したりノウハウが蓄積し標準化され、より低いコストで効率的に生産・販売できるようになることです。例えば、しばらく赤字続きだったテスラは昨年(2021年)に生産台数は90万台に達し、黒字化を達成していますが、これも経験曲線によるコスト抑制が貢献しているでしょう。

・また、②買い手にとって替えの効かない商品を提供する、については、スイッチングコストを高めることを指します。
・スイッチングコストとは、顧客が他の企業に切り替える際に発生する時間・金銭・心理的な負担のことです。
・具体的には、例えば習慣化するのに一定の負担が必要な商品、例えば携帯電話を一度iPhoneにすると、最初はフリック操作など慣れるのに時間がかかりますが、一度その操作性、OSやアプリに慣れてしまうと、よほどの理由がない限り、わざわざ他の携帯に切り替えて一から操作に慣れることはしないですよね。
・また、かかりつけの病院や美容院など、失敗すると大きな影響を受けるサービスについても、よほど前回の対応が気に入らない、といった理由がない限り、他社に乗り換えることはしないですよね。

・良い企業の定義に戻ると、こうした参入障壁を持つ良い事業を今現在持っていることはもちろん大切ですが、過去どのようにこの事業を育ててきたのか、という観点も重要です。
・というのも、過去にでたらめに投資して当たった事業をたまたま持っています、というのでは、今後も参入障壁の高い事業を維持できるかは疑問符が付くからです。
・では何を確認すればいいのか、ということですが、対象会社が過去に行ってきた事業の買収や売却、設備投資や人員など経営資源の配分から、どのような事業の入れ替えと育成を行ってきたか、そしてその試みは目論見通り当たって現在の事業に至っているのか、という点を確認する必要があります。
・これは言い換えると、こうした事業の入れ替えや経営資源の配分の決断を下してきた経営陣の意思決定の妥当性を検証することにもなります。
・つまり、今後も参入障壁を持つ良い事業の発展に向けた経営陣の意思決定が期待できるのか、あるいは現経営者がお年を召している場合、次世代の経営陣は育っているのか、ということも確認しなくてはいけません。

以上をまとめると、良い企業の必要条件は以下の通りといえます。

・各事業の生み出す利益水準を維持・向上できる何らかの参入障壁がある

・長期で稼ぐ力の向上に貢献する事業の入れ替え・設備投資・資源配分を行ってきた結果、今後も高い収益を生み出すことが期待できる

・今後も適切な事業の入れ替えと設備投資の決断を下すことが期待できる経営陣がいる・次世代経営陣が育っている

次回は実際に良い企業を評価するための分析プロセスをご説明したいと思います。

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