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「18禁の図書館がある」

という刺激的な噂を聞いたのは
私がまだ17歳の春だったような記憶がある。

私はその頃、
8割が男子生徒を占めるむさ苦しい学校に通っていて、
当然その噂話に興じているのも男子生徒だった。

私は周りでキャッキャとはしゃぐ
男子生徒たちを見ながら
何という愛すべきアホ達であろうかと
ため息をついたのをよく覚えている。

男子とは、
すべからく単純でアホなものだと相場は決まっている。

私が通っていた学校は偏差値がそこそこ高く
専門性がすこぶる高かったこともあり、
通っている生徒は皆勉強が良くできた。

私が必死になって1日中勉強をし
睡眠時間を削って
何とかかんとか合格した学校であったのに、
学校の授業を寝て過ごし
テスト前に教科書をパラパラめくるだけで
受験に合格したという天才もちらほら存在していた。

世の中の天才には3種類いる。

1種類目は、努力の天才である。
自分の目指すところへ向かって、
とにかくがむしゃらに毎日努力し続けられる人。
努力ができるのもまた才能だと私が気付いたのは
かなり大人になってからだった。

2種類目は、マジの天才である。
努力なんて屁のカッパ。
興味が湧いたときにサラッとやってパパッとできちゃう。
見ていると努力がアホらしくなる人種。

そして3種類目は、マジの天才なのに努力する人である。
これは本当に手に負えない。
異次元すぎて何を言っているのかも分からない。
話していると偉すぎて頭がクラクラする。

そしてこの3種類の天才は
総じて「バカ」と紙一重である。

天才であればあるほど
その紙はペラッペラになっていく傾向があると
17歳の私は分析していた。
薄い紙はすぐに破れ
天才はバカと溶け合って
ただのバカになっていく。

と、いうことで、

「18禁の図書館」

というワードに妄想を膨らませ、
どんな本が並んでいるんだと鼻の下をのばしていた男子達は
皆とても賢く、
そして阿呆であった。

そしてその
「18禁の図書館がある」
と言い出したのは、
紛れもない若かりし日の私の夫であった。

私と夫の付き合いは長い。
仲の良い友人として15歳から関わりがあり、
私が「影の支配者」と呼ばれた全盛期をよく知っている。

ちなみに彼は私のことを
「悪の枢軸」
と呼んでいた。
何も悪いことをいていないのに心外である。

さて、その18禁の図書館。
アレでコレでソレな本がたくさんある
女人禁制の素敵な図書館というわけではなかった。

正式名称を「国立国会図書館」と言い、
国会議員が資料の閲覧をするために
建てられたとかいう
ピカピカのでっかい図書館のことだったのだ。

昔は東京にしかなかったものが、
関西にも分館という形でできていたらしい。

この図書館は
全国津々浦々で出版された本を
全て蔵書しているというスケールの大きい図書館であり、
貴重な本をいくつも蔵書していることから
お子様は入館禁止ということで、
18歳以上のみが入館を許可されるという
システムになっている。

持ち物は透明なバックに入れ替えて
中が見える状態にしないと持ち込むことは許されない。
飲食はもちろん厳禁。
会話している人なんて
もちろん一人たりとも見当たらない。

これだけ真面目な図書館なのに
よくぞ

「18禁図書館」

などとふざけた名前で呼んだものであるが、
何も間違ったことは言っていないので
大変素晴らしいネーミングセンスである。

このネーミングで全男子生徒の心を
鷲掴みにした図書館であったので、
18歳になると皆で
よくテスト勉強のために利用させてもらった。

家からはかなり遠くて
行くのが大変だった記憶があるが、
静かで大きい図書館は楽しく
勉強は全く捗らなかった。

何故なら
私は分からないところが多すぎて、
教えてもらわないと
解けない問題ばかり抱えていたからである。

静かなところでは本当に何もできず、
お腹が空いたからと図書館を出た後のカフェテリアで
ここぞとばかり質問をして教えてもらい、
図書館に戻るとまた問題集とにらめっこし
頭を抱えて時間を過ごしていた。

卒業して大学へ編入してからも
たまにレポートを書いたりするときにお邪魔した。

私は大学の友人を連れて、
運転手として夫が車を出してくれた。
夫は図書館に着くなり
絶対に仕事では使わないであろう
危険物取扱責任者の資格の勉強とか
簿記の資格の勉強とか
なぜか黙々と問題集を解いていた。

私が学生ではなくなってしまうと
図書館へ足を運ぶこともなくなってしまった。

本があまりにも大量に置いてあるが故に
この図書館では本を気軽に手に取ることはできない。
わざわざパソコンで蔵書検索をかけ、
注文をし、
カウンターまで取りに行かないといけない。

実際に本を手に取って選べるわけではないため、
本は「ジャケ買い」するタイプの私としては
本を読むためにわざわざ行きたいと思える場所でもなかったのだ。

その後結婚して引っ越しをして
夫と話していてびっくりした。

私が移り住んだ土地はあの
「18禁図書館」
のご近所だったことが判明したのだ。


と、いうわけで
今日の私は仕事をするため
かの18禁図書館へ久々にやってきた。

久々の18禁図書館は
相変わらず広く、
方向音痴の私は駐車場で右往左往、
図書館の中でも右往左往して
すっかり歩き疲れてしまった。

席についてパソコンを広げると
静かで空調の効いた空間が心地よく
仕事が一気に進んでいった。

私も周りの友人達も大人になり、
18禁という言葉でキャッキャする純粋さは
すっかり薄れてしまったけれど

この図書館に来ると
あの頃の若かった私が
天才にもまれて苦しかった私が
けれども賢い集団の中で生活がしたいと
必死に環境にしがみついていた私が

すぐそこにいるような気がするのだ。

グレープフルーツのような
酸っぱさと苦さを抱えた思い出と一緒に
私はパソコンに向かい
この文章を書いている。


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