人生もTVゲームも簡単に攻略する方法

「たまちゃんは未来のことばっかり心配してるね」

そう指摘されたのは
2023年が始まってすぐのことだった。

私自身はそんなつもりは全くなかったのだが
確かに言われてみればその通りで、

将来◯◯になるかもしれないから

そんな言葉と共に
無意識に我慢している小さな小さなことが
日常生活の中に無限に広がっていた。

「最後まで取っとけばよかったー!」
ってなるかもしれないからと
好きな食べ物は一番最後に食べるようにしていたし、

「これよりもっと気に入るものが出てくるかも」
なんて思って、
お店で気に入ったものを見つけても
すぐに買うことは絶対になかったし、

「やるのを忘れてしまうかもしれないから」と
やりたくない上に急ぎではない家事を
他のやりたいことを我慢して片付けたりしていた。

一つ一つは本当に取るに足らない
我慢という枠におさまるほどでもない
小さな小さな事柄なのだけど、

よくよく考えてみれば

「最後まで取っておけばよかった」
なんて後悔したことはそうそうないし、

「もっと気に入るものがあった」
なんて頭を抱えたこともそんなにないし、

「やるのを忘れてた!」
なんて日常茶飯事で、
毎日毎日何かしら忘れているのに
特に困ったことは起こっていない。

どう考えたって
我慢するだけ自分の機嫌が悪くなっていくばかりで
何も良いことがないのだ。

けれどこれだけ毎日我慢ばかりしていて
どれが我慢なのかも分からない日々なのに
急に“我慢をやめましょう”なんて
無理難題もいいところで、

とりあえず
「今の欲に従う」
というミッションに取り組み始めることにしたのは
これなら出来そうだと思ったからだ。

「今の欲に従う」

簡単なようで
意外と難しいこのミッション。

最初は食事の時間から始めることにした。

“今、食べたいのであれば”

“例え最後に食べるはずの好物であっても”

“それが食事の最初であっても食べる”

これを徹底的に、
毎食毎箸自分に問うことにしたのだ。


どれから食べようかな。


私には子どもが2人いる。
ややこしいことばかり言う3歳半の娘と
まだまだ赤ちゃんの1歳の息子。

この2人を抱えた状態の食事は軽く戦争であり、
スプーンを息子の口に運びながら
娘のおかずを切り分け
こぼしたお茶を拭きながら
椅子から脱走しようとする息子を座らせ直し
娘の質問攻めに適当な相槌と生返事を返しながら
息子が放り投げたマグを拾い上げ
ついでに床に散らばったおかずもティッシュで拾いつつ

その合間に私もご飯を食べる。
その時にちゃんと自分に問う。

“今、何が食べたいの?”

その答えを叶えてあげる。

「明日までにこれを食べ切らないと」
「娘が手をつけなかったアレがもったいない」
「もうこんな時間だ!何でもいいから早く食べろ!」

外部環境が口うるさく私にささやくけれど、
そんなものは無視して自分の声を聞く。

そのトレーニングを始めて半年。
私は少しずつ
順番を気にせずに好きなものを好きなように
食べられるようになった。

この半年の間に
そのトレーニングは食事の時間以外にも派生し、

買い物に行っても
自分に“本当に欲しいか”を問うようになり、
本当に欲しいのであれば
値札に関係なく購入するようにした。

3,000円のセーターが高いと
怖くて買うことができなかった私が、
自分が本当に欲しいのならと
2万円のワンピースが買えるようになったのだから
人間やればできるものである。

何も考えずにやっていた家事も
“本当にやりたいか”
を一瞬だけ考えるようになり、

家事をやった後に手に入る未来を
少しだけ想像して、

その未来が欲しいと思えば
どれだけ面倒だと思っても手をつけるようになった。

逆にその未来に興味がなければ
思い切って“やらない”という選択を取るようにもなった。

そうなると
やらないことは案外誰かが代わりにやってくれたり、
突然やりたい気持ちがやってきて
勢いに乗ってすぐに片付けられたりするもので、

やりたいことは面倒でも手をつけることで
部屋はだんだんと綺麗になっていき、
着たいけどシワだらけだからと避けていたブラウスは
パリッとアイロンがかかった状態でクローゼットに吊るされ
ルンルンで着られるようにもなった。

今の欲に従うトレーニングは今も絶賛継続中で、

私は本当に少しずつ
少しずつ
自分の生きやすさに向き合えるようになっていった。


昔はスキューバダイビング中にのんびりしていたものだけど。


と、かっこいいことを書ければいいのだけど、
実のところそんな実感は全くない。

自分が生きやすくなっているかどうかなんて
正直気にしている余裕はあまりなく、
そんなことより2人の子どもの世話に奔走し
ままならない家事に絶望し
中途半端に放り投げた仕事に頭を抱え、

夫の帰りが遅いとなれば「ワンオペ無理」と泣き言を言い
娘のワガママにイラッときて怒鳴り散らし
私の勢いに息子が怖がって泣き出し、

ご飯とお風呂とおむつ替え、
おもちゃの散らかった部屋を片付けて布団を敷き
子どもを寝かしつけるだけで
毎日精一杯すぎて
自分の成長なぞサッパリ気にしている余裕はないのである。


そんなある日、
息子と娘が同時に発熱し
家での養生を余儀なくされたことがあった。

熱が出ると2人とも甘えたモードになるので
私の膝に座りたがる。
しかし膝に座られると私が何もできず退屈で、
本当はすぐにでも昼寝をさせたいのだが
2人とも眠る気配はない。

さてどうしたものかと思案していたとき

「久しぶりにゲームがしたい!」

と私の心が叫び出した。

ならば、と
埃をかぶっていたニンテンドースイッチを取り出し
昔クリアしたゲームをもう一周してやろうと
部屋の隅に鎮座するヨギボーに腰掛け、
右太ももに娘
左太ももに息子を座らせて
子どもたちのためにYouTubeで
「シナぷしゅ」という子供番組を流し、
意気揚々とゲームを開始した。

おひざの上で甘えることができて子どもは満足、
私は久々のゲームでテンションアゲアゲ、
これぞwin-winの関係である。

私が2周目を始めることにしたゲームは
「トトリのアトリエ」
というタイトルのものだ。

この「アトリエ」シリーズのゲーム、
なんと今年で25周年を迎えるらしい。

私は学生の頃に
「面白いゲームがあるから!」と
イトコに貸してもらってから
その魅力にどっぷりハマってしまい、
たまにメルカリで新タイトルの中古ソフトを購入し、
それを何周もプレイすることを繰り返している。

このゲームは
シリーズによってやることは少しずつ変わるのだけど、
基本的には
フィールドでモンスターと戦いながら材料を集め
それを使って色々なものを作り、
作ったものを売ってお金を得たり
使ってモンスターと戦ったりしながら
ゲームを進めていくという内容になっている。

トトリのアトリエで扱う素材には
「特性」というものが付いていることがあり、
その特性を組み合わせることで
普通に作るよりも品質が良かったり、
高値で売れたり、
威力が上がったりと、
多彩なものが作れるようになっている。

このゲームを最後にプレイしたのは
確か息子が生まれる前だから、
約1年ぶりの再会である。
ゲームの筋書きはなんとなく覚えてはいるが
細かいところはすっかり忘れているものも多く
新鮮な気持ちで進めることができた。

のだが。


なんだか、


妙に簡単なのである。



妊娠中に気晴らしにやっていた1年前より
明らかにゲームが簡単なのだ。

2周目だから操作を覚えていて簡単に思えるのか?
もちろんそれもあるのだが、
感じているのは操作云々の簡単さではない。

2週目だから何か引き継ぎ要素があったのか?
そんな機能もあるらしいが、
私は何も考えずに新しいデータでスタートしている。
何も引き継いではいない。


いやでも、そういうことではないのだ。

このアトリエシリーズ、
もっと頭を使うゲームだった気がするのだ。

ついでにモンスターを倒すのも難しく、
ゲーム下手な私はいつも
HPギリギリで行動する羽目になり
ぎゃーとかひゃーとか言っていた気がするのだ。

それが
何故だかサクサク進む。

モンスターもサラッと倒せる。

何だこれは…??


ゲームは下手だけど大好き。


頭に疑問符を浮かべながら
なおゲームを進めていって
私はあることに気がついた。

素材を使ってアイテムを作るとき、
作ったものを使って冒険を進めるとき、

私は
「もったいない」
と思わないようになっていたのだ。


小さな我慢を重ねていた妊娠中
私はせっかく集めた素材を使うことができなかった。

「この特性はレアだから
いつか使いたくなる時が来るかもしれない。」

その時が来るまで置いておかなくちゃと
わざとランクの低い
使えない特性の付いているものを使ってアイテムを作っていた。

どこら辺のレベルの素材を使えばいいのか
悩みに悩んで時間がかかるし、
そんな微妙なアイテムは高値で売れないし、
使っても効果が薄かった。


作ったアイテムも
もったいなくて使うことができなかった。

「使っちゃうとなくなって困るかもしれないから
ギリギリまで使わないで戦おう」

なんて考えて、
無理に物理攻撃だけで乗り切ろうとして
返り討ちに合いまくっていた。


それが
「今の欲に従う」
トレーニングを半年も経た今、
私はゲームの中でも今の欲に忠実に従うようになっていた。

どれだけレアな特性でも
「今」使いたいならさっさと使う。

どれだけ作るのに苦労したアイテムでも
「今」使いたいならとっとと使う。


するとどうだろう。


集めた素材の中で
「今」使いたいものを組み合わせるから
どの素材を使おうかなんて考える時間はほぼゼロ。

作ったアイテムは高値で売れて
お金はあっという間にザクザク貯まり、

貯まったお金でハイスペックな装備を揃え
お店で買うべきものもガンガン買える。

モンスターに遭遇しても
アイテムをジャブジャブ使って戦うから
すぐ倒せるし
素材だってすぐに集まる。

素材さえあればアイテムはすぐに作れる。
以下繰り返し。

頭なんて使っていないのに
好循環、好景気。


こんな植物があったら毎日ちゃんとお水をあげるのになぁ。


「今の欲に従うことで人生がうまくいく」

なんて言葉を半信半疑ながらも信じて
ここ半年はトレーニングを積んできたけれど、
思ってもない角度から

「今の欲に従うとうまくいく」

という実感がやってきて
私はゲームを進めながら感動してしまった。


私の心の中でそんな
大革命が起こっているとはつゆ知らず、
私の膝の上で息子は眠り
娘は私の横でヨギボーに顔をうずめ
そのまま眠ってしまっていた。


子どもには昼寝をしてほしい。

私はゲームがしたい。


ゲームがしたいという今の欲に従うだけで
私の心からの願いも叶えられるのだから
やっぱり欲に従うトレーニングというのは優秀なのだ。

私は今の欲に従って生きていく。

それでゲームも人生もイージーモードになるなら
続けていく価値は、ある。

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