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多摩美の図書館、地下の書庫はどうなっている?

多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)の収容能力の3分の1にあたる約10万冊もの図書・雑誌を収めているのが、地下1階の「集密(しゅうみつ)書庫」です。

「集密書庫」とは、その名の通り、限られたスペースを最大限利用するために工夫された書庫で、せいぜいテニスコート1面分くらいの広さしかないのですが、非常に多くの資料を収めることができます。

学生の皆さんでも自由には入れないスペースで、閉架書庫ツアーのガイダンスにでも参加していなければ、存在すら知らないかもしれません。今回は、この集密書庫の中の様子をご案内したいと思います。

こちらの動画(約2分)で、ちょっとだけ中を覗いてみましょう。

注)資料の利用に関する説明は在学生向けのものです。


電動書架がならぶ集密書庫


普段は棚同士の間にすき間はありませんが、電動書庫の下にはレールがあって、スイッチを押すと棚が動いて人が入れるスペースが現れます。誰かが中に入っている時は、本棚に人が挟まれることがないよう、センサーが反応し、下の写真のようにライトが赤く光り、スイッチを押しても動かなくなります。同時に何人もの人が使えないのでちょっと不便ですが、その分、多くの本を置けるようになっています。

棚の間に人が入るとセンサーが検知

今回、電動書架の棚の数を数えてみたのですが、500連以上(1連が一本の棚)もあり、その総延長は横に並べると約470メートルになりました。1連の棚は4~5段の棚板で区切られていますので、棚を1段ずつ、単純に横にならべると、おそらく2キロメートル以上になるのではないでしょうか。あらためて計算した自分でもびっくりしています。

集密書庫の入口から。両側に電動書架がならぶ。


集密書庫の資料①超大型の画集


ところで、一般的な書店や図書館では、30センチ(A4サイズ)程度を超える本は「大型本」と呼ばれ、他の本とは別の大きな棚に置かれることが多いようです。でも、多摩美の図書館は美術の本がメイン。美術の本といえば画集。画集といえば…、大きい。…ということで、多摩美の図書館では30センチ程度の本は「普通」の大きさです。でも、さすがに50センチもの本になると、図書館でも「超大型」と呼んで、集密書庫でも限られた数しかない、十分な奥行きと高さのある棚に収めています。

大きさが伝わりにくいかもしれませんが、下の写真のように集密書庫には50センチ程の本がならんでいる棚があります。ちなみに、本のラベルの上に「XE」と書かれたシールがありますが、これは多摩美の図書館で「超大型」を示す印です。ちなみにとても重いです…。

超大型の本が並ぶ

中には60センチを超えるものもあります。次の写真は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』(ミラノ・アンブロジアーナ図書館蔵)のファクシミリ版です。ファクシミリ版とは、できる限り元の資料に忠実に大きさや色などを再現した複製版のことですが、この本は、レオナルド・ダ・ヴィンチの描きのこしたデッサンや注釈で構成された手稿集で、複製とはいえとても貴重なものです。そしてこれもかなり重い…。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』(ファクシミリ版)


集密書庫の資料②雑誌バックナンバー


図書館では、原則、購読しているすべての雑誌の過去の号(バックナンバー)を保存しています。すでに終了(廃刊)してしまった雑誌も含めると、約2400タイトルと膨大な量です。しかも、その内400タイトルは今も刊行されていて、日々増え続けています。

たとえば、『みづゑ』(「ミズエ」と読みます)という雑誌をご存じですか。美術の総合雑誌として多くの人に親しまれ、さまざまに形を変えながら2007年頃まで100年以上続きました。多摩美の図書館の一番古い号は下の写真の1938年6月号(第400号)です。一般的に図書館では、長期保存に耐えられるよう数カ月分から1年分をまとめて製本することが多いのですが、多摩美では古い雑誌でも製本せずに保存していることが多いです。なるべく、雑誌の顔である表紙や背文字のデザインも含めて保存することを重視しています。80年以上前の雑誌なのに表紙はとてもきれいです。

集密書庫にあった『みづゑ』の一番古い号

集密書庫には、このような20世紀前半に刊行された雑誌のバックナンバーも眠っています。いつ頃の号から図書館にあるのかは、多摩美の図書館の蔵書検索で確認できます。下の図はそのスクリーンショットですが、確かに所蔵巻号が「400」から、所蔵年は「1938」年からと書かれていますね。

多摩美の図書館の蔵書検索より『みづゑ』

もっと古い雑誌もあります。こんどは海外の美術雑誌を見てみましょう。『バーリントン・マガジン』はイギリスで1903年に刊行を開始した雑誌ですが、多摩美には創刊号から所蔵されています。製本された佇まい、この装飾や文字がとてもステキですね。

集密書庫の『The Burlington Magazine』

『バーリントン・マガジン』はイギリスの最も権威のある美術雑誌の一つで、過去にはロジャー・フライやハーバート・リードなど、美術史を学んだ人であれば一度は聞いたことがあるような著名な批評家が編集者として名を連ねていました。

そして、この『バーリントン・マガジン』、なんと…、今も続いています。もちろん、多摩美の図書館でも購読をしています。

1階雑誌エリアの『The Burlington Magazine』最新号

ちなみに、以前は、約2400タイトルの大半の雑誌のバックナンバーは集密書庫に並んでいましたが、増え続ける雑誌を収容するのが難しくなり、ついに2019年に雑誌の一部を外部の倉庫に移しました。普段は空調設備の整った環境で保管され、学生の皆さんの求めに応じて取寄せる形をとっています。

そう、実は、この集密書庫の他にもまだまだたくさんの資料が多摩美にはある、ということです。もちろんそれらも蔵書検索で探すことができます。


見えない書庫の存在を知ると、蔵書検索が変わる


地下の書庫の様子をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。なかなか見ることができないところに、まだまだたくさんの資料があることがわかっていただけましたでしょうか?

図書館の目に見える部分というのは、実は一部分にすぎません。これは、多摩美の図書館に限ったことではなく、ほとんどの図書館が立ち入りができない閉架(へいか)の部分を持っています。場所の広さには限界があり、いちばん手が触れやすい棚には、その時いちばん求められる本や雑誌が配置されるため、仕方のないことです。

一方で、蔵書検索には(一部例外はあるとしても)利用できるものが基本的に全て入っています。

図書館に行って棚を見て回るのも楽しいですが、本当はそれ以外にも、閉架書庫であなたが探してくれるのを待っている資料がきっとあります。あなたも、蔵書検索のPCの前に立って、図書館の広くて深い世界に飛び込んでみませんか。グーグル検索のようにすぐに情報そのものは出てきませんが、「まだ知らない一冊の本、一本の記事との出会い」というかけがえのない体験をもたらしてくれることでしょう。

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<多摩美術大学図書館>
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