見出し画像

これからの「年末調整」実務での改正点


サラリーマンにとっての「確定申告」

 「年末調整」の対策と準備が始まると、朝夕などは冷え込んできますし、日が暮れるのも早くなり、街も気分もすっかりハロウィーン、そしてすぐにクリスマスモードです。
 季節が移り変わるのは早いですね😲

 給与所得者にとって確定申告に代わる大切な作業である年末調整。
 ご担当者には大変な負担ですが、所得税を学ぶ絶好の機会でもあります!

 このところ年末調整の実務も、ずいぶんと電子化が進んできましたので、控除額や年税額はソフトがちゃちゃっと計算してくれます。
 とはいえ、基本的なしくみのおさらいと改正点の確認は欠かせません。

 本年と来年以後の年末調整実務での改正点を整理しておきましょう!
 学びの秋、1日年調セミナーで基本からみっちり勉強もおすすめです ♪

1.「国外居住親族」に対する扶養控除

                 ~ 令和5(2023)年1月1日より適用 ~ 

 「国外居住親族」とは「非居住者」である親族をいい、1年以上国外に居住する親族、1年以上日本で勤務する外国人労働者の本国で暮らす親族などが該当します。
 海外に住んでいる親族を扶養控除の対象とできる年齢要件(16歳以上)、所得要件(合計所得金額48万円以下)および同一生計要件(生活費等の仕送りをしていること)は居住者である親族と同じです。ただ合計所得金額は、その非居住者の国内源泉所得(日本国内で得た所得)で判定します。

 従来より、国外居住親族については国税当局の目が行き届きにくいため、ほんとうに親族である証拠として「親族関係書類」、生活費等の仕送りをしている証拠として「送金関係書類」の2つの書類の提出を要件として扶養控除が適用されていました。

 さらに改正で、本来、自分で働き所得を得るはずの年齢30歳以上70歳未満の国外居住親族について扶養控除の要件が厳しく見直されました。

(注)居住者は、国内に住所または現在まで引き続き1年以上の居所を有する個人をいい、非居住者は居住者以外の個人(国内に住所を有さず、かつ、現在まで引き続いて1年以上の居所も有しない人)をいいます。


(1)扶養控除要件の見直し

 国外居住親族にかかる扶養控除の対象者のうち年齢30歳以上70歳未満の人については、次のいずれかに該当する者についてのみ扶養控除を適用することになりました。

留学により非居住者となった者
障害者
③扶養控除の適用を受けようとするその居住者から、その年における生活費または教育費に充てるための支払いを38万円以上受けている者

 上記①または③に該当する者であることを明らかにする書類を提出または提示しなければなりません。
 ①に該当することを明らかにするためには留学ビザ等相当書類、③に該当することを明らかにするためには送金額等が38万円以上である送金関係書類の提出または提示が必要となります。

 ③については、「年38万円の送金で良いの?」って感じですよね。
 実際のところ年38万円では、教育費・生活費にまったく足りません。
 しかし課税庁が、扶養控除額を38万円、つまり「1人扶養するのに38万円(月にして31,666円)は必要でしょうから課税しませんよ」と規定しているため送金額38万円以上でよいことになっています。

 100万円以上の送金を条件とするならば、扶養控除額も100万円にすべき!という話になってしまいますので。💦


(2)源泉徴収票の記載方法

 上記(1)の扶養控除の対象となる非居住者である扶養親族要件が見直されたことに伴い、令和5(2023)年分以後の給与所得の源泉徴収票の控除対象扶養親族の「区分」欄については、下記の内容を記載することとされました。


国外居住親族がいる場合の「源泉徴収票」



(記載内容)
空欄(e-Taxまたは光ディスク等で提出する場合は「00」)・・・居住者
01・・・非居住者(30歳未満または70歳以上)
02・・・非居住者(30歳以上70歳未満、留学生)
03・・・非居住者(30歳以上70歳未満、障害者)
04・・・非居住者(30歳以上70歳未満、38万円以上送金)

 なお30歳以上70歳未満の非居住者が02~04の要件に複数該当する場合は、いずれかひとつを記載します。


2.源泉徴収票の電子交付の承諾手続き

              ~ 令和5(2023)年4月1日以後の通知より ~

 源泉徴収票および給与支払明細書を書面に代えて電子交付することにつき従業員の承諾を得ようとする場合において、あらかじめ従業員等に対して「給与支払者が定める期限までに承諾しない旨の回答がないときは承諾があったとみなす」旨の通知をし、その期限までにその給与所得者から回答がなかったときは、その承諾を得たものとみなすこととされました。
(改正前:従業員等の承諾を得なければ電子交付できない)

 会社側が「紙ではなくメールで送付して良いですか?」と問いかけても、返事がない(遅い)従業員が居るために作業が滞ることを避ける配慮です。

 給与支払者は、給与所得者の勤務状況等を考慮し、回答に必要な期間を十分に見積り、期限前にリマインドを行うことなどが求められます。



3.光ディスク等による提出手続の簡素化

             ~ 令和5(2023)年4月1日以後の提出分より ~

 法定調書等を提出すべき者(注)は、特段の事前手続を必要とせず、光ディスク等(光ディスクまたは磁気ディスク)により調書等を提出できることとなりました。
(改正前:所轄税務署長の承認を受けた場合または調書等の提出期限の属する年以前の各年のいずれかの年において光ディスク等で提出していることが要件)

 従前どおり、事前に税務署長に届け出たうえで、e-Taxまたは認定クラウド等を使用してオンラインで提出することも可能です。

(注)調書等の種類ごとに、前々年に提出すべきであった枚数が100枚以上であったため、e-Taxまたは認定クラウド、光ディスク等による提出の義務が課される者を除く


4.住宅ローン控除に関する手続き

             ~ 令和6(2024)年分以後の年末調整より適用 ~

 令和5(2023)年以後の居住分より、金融機関等から送付された借入金の年末残高の情報等の調書を基に、所轄税務署が適用申請者宛に控除額を明記した住宅ローン控除証明書を提供する方法とされます。

 住宅ローン控除証明書は、データ(e-Taxのメッセージボックスの利用) または書面にて、適用申請者宛に毎年提供または郵送されます。これにより適用申請者は、借入金の年末残高証明書の住宅ローン控除証明書への添付、 年末借入金残高を記載する作業が不要となります。


「借入金の年末残高証明書」の添付が不要に!



 ただし、住宅借入金等の情報を記載した調書を一定期日までに所轄税務署へ提出することが困難である金融機関は、現行の提供方法による経過措置を適用することができることとなっています。


5.扶養控除等申告書の様式変更と給与支払報告書への記載


 住民税の計算では扶養親族等の要件とされる合計所得金額に退職所得の金額は含めません。そのため退職所得がある親族について、所得税では扶養控除等の対象から外れるが、住民税では控除対象となるケースがあります。
 その内容を会社で把握し、また市役所に伝えるための新たな作業です。

 扶養控除等申告書の最下部に、「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」欄が新設されており、退職手当等(源泉徴収されるものに限る)の支払を受ける配偶者(所得者本人と生計を一にする配偶者で、令和5年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下である者に限る)または扶養親族について記載します。

退職所得がある親族を有する場合の「扶養控除等申告書」


 上記に該当する配偶者または扶養親族がいる場合の「給与支払報告書」は「(摘要)欄」 にその親族の氏名等を記載し、「5人目以降の16歳未満の扶養親族の個人番号」の欄に対応関係が分かるように個人番号(マイナンバー)を記載する必要があります。

退職所得がある親族を有する場合の「給与支払報告書」




6.保険料控除申告書に関する改正

             ~ 令和6(2024)年10月1日以後の提出分より ~ 

 保険料控除申告書の「申告者との続柄」への記載が不要となります。
 具体的には、生命保険金等の受取人と申告者との続柄、地震保険等の契約者と申告者との続柄、社会保険料の負担すべき人と申告者との続柄の記載を要しないこととなります。


7.簡易な扶養控除等申告書の創設

           ~ 令和7(2025)年1月1日以後に支払う給与より ~

 毎年最初の給与の支払いを受ける日の前日までに提出すべき「扶養控除等申告書」について、その申告書に記載すべき事項がその年の前年に提出した申告書の記載内容と異動がない場合には、記載すべき事項の記載に代えて、「異動がない旨」を記載した簡易な申告書により年初申告書を提出できることとなりました。

 なお今後、連年、簡易な申告書が提出される場合には、最後に提出された簡易な申告書以外の申告書の内容が分かるようにしておく対応が必要です。
 給与所得者の氏名、住所または居所および個人番号については、簡易申告書についても記載しなければなりません。従来どおり、個人番号は他の台帳で記録・管理することで申告書への記載を省略することもできます。

 この簡易な申告書の具体的な記載方法等は、今後、国税庁において定められる予定です。


8.源泉徴収票の提出方法

        ~令和9(2027)年1月1日以後は市区町村への提出のみ ~

 給与等の支払者が、市区町村の長に給与支払報告書を提出した場合には、その報告書に記載された給与等について税務署長に給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされます。
 この見直しに伴い、税務署長に対して「給与所得の源泉徴収票」の提出を要しないこととされる給与等の範囲は、市区町村の長へ「給与支払報告書」の提出を要しないこととされる給与等の範囲と同じく、年の中途において退職した居住者に対するその年中の給与等の支払金額が30万円以下である場合のその給与等とされます。

 各年分の源泉徴収票(給与支払報告書)は、会社の所轄税務署と各従業員が居住する市区町村役場へ、翌年1月末までに提出しなければなりません。  

 現行のルールでは税務署と市役所で提出すべき範囲が異なり、さらに税務署提出分は年末調整の対象者かどうか、役員か役員以外か、途中退職者か、扶養控除申告書の提出者か否かなどで提出範囲が異なります。

 改正後は市役所への提出で完了!となりますから事務作業が軽減します。
 これらの法定調書にはマイナンバーを記載のうえ提出するわけですから、あちこち提出しなくても個人別に情報収集できるはずですよね。


 体調にご留意いただき、本年度の年末調整実務を乗り切ってください♪

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?