二人きりの庭

「じゃあ、夏休みは嫁しに行くんだね。」
会社の先輩が言った。
『嫁する』って言葉にドキッとさせられた。
8月の長期休暇は、北海道の義理の実家に泊まる。気ばかり遣う私にとっては正直、楽しみな行事ではない。

「嫌いなものがあったら言ってね」と、義母。
「あんまりないんです」
なんて言いつつ、大嫌いなトマトはさりげなくよける。あの酸味とジュワァっとした触感はどうも好きになれない。

そんな帰省もこの夏で2回目を迎えた。

早起きして、庭に出てみた。
「おはよう」
義母も起きてきた。
女二人きりの庭では、自然と話題に花が咲く。話しながら、義母の左手のザルには、真っ赤なミニトマトがコロンコロンと入っていく。

「採れたて、食べてみない?」
初めて会った時と変わらない、飾らない穏やかな笑顔。
自然とトマトに手が伸びた。

甘い。
いつもの酸味は、北海道の晩夏の風と、義母の優しい笑顔で飛んでしまったみたいだ。