ほっといて。

消えたがる君を引き止めたかった。
僕が呼び止めても君は振り向かずに答える。
「私、もう死ぬの。もうほっといてよ。」
自暴自棄になる君に僕は嫌気がさした。構わず君はまた歩き出した。ビルの屋上の隅に君は立つ。あと一歩踏み出したら、足はもう地面につかない。君はもう死ぬつもりだった。
その時、君は自分の境遇について語り出した。それはきっと君の最期の演説。この世界に対する憎悪を吐くような演説。
「誰も私のことなんか分かってくれないし、誰も大切にしてくれない。こんな人生、何が良いのか分からないよ!」
君はそう叫んで演説を終えた。多分君は待っていた。僕からの餞別を。僕からの最期の温もりを求めていた。
むせかえるほどの吐き気。喉元まで出かけた吐瀉物を出さないように呼吸を止める。
僕は、君の手を取って言った。
「お前のことなんか誰が見るかよ。勝手に死ね。」
そして君を突き落とした。
君みたいな馬鹿は嫌いだ。
僕は君を殺したかった。
夜空を見上げ、込み上げる笑いを抑えるために僕はそっと目を閉じた。

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