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掌上拾集

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掌上拾集の本編です。 たくさんの方にご協力いただきました。ありがとうございます。 そしてお待たせしてごめんなさい。
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 暗い中を歩いていた。

 どうやらここは夢の中のようで、明かりのない闇の中でも己の手が見えることがその証左であった。夜毎訪れるこの世界には、人はおろか動物すらおらず、五感に届くのは「無」のみである。この状況には慣れていて、今宵もいつもの繰り返しだろうと悟った私は、歩みを止め、ただ中空を見つめた。人によっては発狂してしまうであろうこの世界は、無であるからこそ平穏で、私の心を乱すものはない。生来五月

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