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08月共読本:八月の銀の雪を読んで

毎月恒例となった共読本、早くも4冊目になりました。
今月は「八月の銀の雪」。この活動初めての短編集です。

著者 伊与原さんの経歴と同じくらい、参考文献ページの密度にたまげてしまい、
ここ4ヶ月ほど休眠させていたノートパソコンをわざわざ引っ張り出してきてこのレポートに取り掛かった訳です。
図書館というより、博物館で読みたい一冊かもしれない。海へ還る日の主人公が、宮下さんのクジラの原画を見て感じた空気感がなんだか分かるような気がします。

本作は五編から成る1冊ですが、すべてに共通して「外見からでは分からない人の”内核”に耳を澄ませるお話」の要素がありました。
八月の銀の雪ではコンビニで働く使えない外国人留学生と内定ゼロの取り柄のない大学生、海へ還る日は気弱で芯のないシングルマザーと親切な老婦人…といった具合にどのお話でも最初はパッとしない人々が出てくるけれど、読み進めるうちに、それぞれの核から何度も反射・屈折して表に出てくる音の波を拾えるようになる。読み終わりには違う色に光る一面が見える。そういう読後感でした。
その人の本質は表層だけでは分からない、当たり前なのに忘れがちなことですね。

意外なことばかりだと考えるのは、間違いだ。深く知れば知るほど、その人間の別の層が見えてくるのは、むしろ当たり前のこと。今はそれがよく分かる。

八月の銀の雪 文庫 p77

これは外向きのベクトルだけではなく、内向き、つまり自分自身に向かうベクトルも同じこと。むしろ自分の核の方が見えない(見たくない)し、触れない(触れたくない)からより分からないまま。分かっていないことさえも、もう一つの殻で覆い隠して気付かないようにすることもままある。冒頭の「八月の銀の雪」で一回ブスッと刺されて、誤魔化しているうちに「玻璃を拾う」で念押しのトドメを刺されてみたり。
全然関係ないですが、この話の流れで高校数学ⅢCでやったベクトルが苦手だったあの感覚が蘇ってきてしょんぼり。ただ、本作を読むと高校物理もちょっとかじっておけば良かったなと思ったりしますね。わたし自身もまだ自分の内核の全貌は知らないから、食わず嫌いの分野に凧が揚がっているかもしれない。

こういった感じで、小説であり自己啓発的な要素もあるものの、科学的な知見に置き換えて物語は進むので冷静に受け止めやすい。だけども、推理小説ものともまた違う。わたしは情緒的な本だとかエッセイものを好んで読みがちなので、たまにはスパイスを効かせた本作に近い作品も読んだ方がいいな〜という発見でした。

ちなみに、「海へ還る日」の主人公がなぜ”考えごと”をしているクジラの果てなき思考の宇宙に触れてうれしくなったのか。ここがいまいちピンとくる答えに辿り着けなくて、他のみなさんの感想を聞いてみたい。個人的には、すぐに思考を宇宙に飛ばしがちな主人公がクジラに親近感を覚えて、プランクトンレベルだと思っていた自分自身を少し肯定できた?のかな?と思ったり。憧れ的な?う〜ん、難しい。

その繋がりで最後にお話すると、文庫カバーが「海へ還る日」モチーフなところも素敵ポイントでした。このお話は絵としてアウトプットされるべき!!宮下さんの魂!!の熱量があったので。「八月の銀の雪」イメージの単行本からデザイン変更がなされていることにひとり感動した八月半ばの1日でした。もちろん銀の雪も神秘的で魅力たっぷりなんですが!

次回の09月ははじめての選書担当なのでまた違ったドキドキが。
久しぶりにPCを開いた勢いで、サボり続けている年間計画月次振り返りも復活させたいものです…

まとまらない感想になっちゃったけど、今回はこのへんで!
ほな、まったな👋

(玻璃を拾うに出てくる珪藻アート、ため息が出るほど素晴らしい美しさなのでご興味のある方はぜひ調べてみてください)

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