2020年9月『さくらの雲*スカアレットの恋』

「──さぁ、解決編を始めようか」

・序章

 所長の声がもうちょっときゃぴっとしてるのかと思ったら、以外と落ち着いた声してた。
 所長は所長とか探偵としか名乗らないけど本名はベッキィですか? 個別ルートで明かされるのかな?
 加藤大尉も「アカシック・レコード」とか言ってるし(アカシック・レコードという単語の初出は1950年代)未来人だろ?
 主人公の知識の出所に理由がない。これじゃあやってることなろうと同じだよ。
 最後、不知出遠子がモーゼルC96で誰かを射殺するシーン、ヒロインが平然と殺人を犯すなってのはともかく時代的に無理ない?
 たしかにモーゼルC96はC96って言うくらいだから1896年以降だから存在はするし、女性が使うのも可能な拳銃だから使うのはともかく、日本に入ってきたのは日中戦争で中国側から鹵獲して以来だからなぁ……弾薬も7.63mmで9mm弾ではないし、構造的に「一発だけ撃つのに使う」のには不向きだし。
 それこそ使うなら柳楽が使ってるみたいな二十六年式拳銃で良かったでしょ。

・枝を渡る/不知出遠子

 この女、この時代にはないセパレートタイプのセーラー服で登場したし(セパレートタイプは1921年以降)、こいつも未来人か?
 主人公が不知出遠子に心惹かれるのもわかるけど、遠子が「目的のために手段を選ばない」ってのもわかるけど、その「手段を選ばない」が「殺人を禁忌としない」って言うのがわかっているからすごいやだ。気持ちが悪い。「ま、恐喝と殺しだきゃ思いとどまったのが救いかね」
 やる気満々なのにいざとなる生娘ってのは◎。あとキスしないのも嫌にリアル。
 「道を踏み外した枝が……」ってのもそう言う問題ではない。

・枝を渡る/水神蓮

 「私に恋を、教えてくれますか?」まではよかった。王道だった。でもその先。付き合ってからなにこれ。そりゃね、今まで性に触れてこなかったお嬢様が一度してみたらどっぷりってのはわかるんですよ。でもだったらそれ以前のストーリーでちょっと性に興味ありますよ感出しておいて欲しかった。
 ヒロインとしてはそれはそれはかわいいんだけど、ストーリーも王道なんだけど、異物。なくて良いし、別作品でもよかった感じがする。そりゃ一応ナリゴンとか加藤大尉とか別府とかちろっと核心に近いところが出たけど、紙媒体じゃないエロゲで要素をちりばめるのは悪手ですよ。読みたいときに読み返せないんだから。

・枝を渡る/メリッサ

 これは共通ルートでやるべき話でしょ。確かにこれまで出た要素や人物を集めて事件を起こしてってのは他ルートでの説明がないとできないことだけれど。でもね、CG鑑賞画面でネタバレかますのはどうかと思うよ。あと死体を描かないのはまぁ良いとして、視認しないとわからない状況を証拠にするのはどうかと思うよ。CGを使わないならゲームは推理小説に劣る。それでも普通頭高型のアクセントで発音する「カヤノ」を尾高型で発音させるのはちゃんとゲームであることを活用してて良かった。
 物語としては3人目で4人目に繋ぐ要素を持ってくるのは良いんだけど、それをヒロインから言わせちゃうと「大義のために個を犠牲にする」ってことだから僕は嫌い。言うのはメリッサではなくアララギの役目。

・枝を渡る

 不知出遠子の枝、水神蓮の枝でも1923年より早くに関東大震災が起こった描写してるけど、だったら蓮に「そのうち戦争(WWII)が起こるから」って言ってるのは危機感なさ過ぎでしょ。それとも付き合った後半年くらいで結婚した?

・枝を渡る/所長

 ベッキィかと思ったけどレベッカだったらしい。Another Viewを使いすぎ。一人の視点で掛けないなら書くべきではないよ。
 なんというか話が飛躍しすぎる。「探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」どうしてノックスの十戒が守れないのに探偵ものを書くのか。あと「桜雲」は元号になり得ません。そもそも市街地に毒を撒く様な世界大戦が起こるとは思えない。対テロ戦ならともかく。あと昭和が64年続いて、平永が30年続いて2020年ってことは桜雲3年なわけでそこで本土が攻撃されるレベルの戦争になって、そこから士官教育を受けて軍人になる? 時間的に無理があるだろ。
 結局本名は加藤が口にするだけで、主人公の前では名乗らないのな。せめて別れの前に「私はこの国に骨を埋めるから。墓参りくらいには来てくれよ。レベッカ・クルーガーの」くらいは言えよ。
 あと『櫻の樹の下には』を出すなら主人公があの桜の木の下にベッキィを埋葬したって描写が必要でしょ。

・総評

 セーブのシステムとテキストボックスに出ない台詞が音量をボイス音量じゃなくてBGM音量を参照する仕様はクソ。最後の手紙もそのせいで台無し。
 ストーリーも嘘の付き方が下手。物語は、特に現実に即した物語は始めに一つ嘘をつけばいいのであって、今回の場合は「タイムスリップの許容」がそれに当たる。でも当時で有名人だったはずの野口英世が知られていなかったり、当時ない概念の「アカシック・レコード」に言及したり(でも加藤大尉は未来人だからその暗示としてなら○)、当時ない形のセーラー服だったり、当時ないESPカードだったり、2000年以降に出てきた空飛ぶスパゲッティモンスター教をモチーフにした地を這うシャイニングマッドドッグ教とか言ったり、嘘の付き方が下手。
 ワイダニット、フーダニット、ハウダニットに言及しているならちゃんとノックスの十戒も守るべきだ。せっかくメリッサルートでは「メリッサが透視できる」というい超能力要素で解決することは我慢したのに、これが守れていない。「探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」。まぁ所長ルートでは存分に超能力つかうんですけど。探偵ものの初歩(エレメンタリィ)ができてない。
 探偵ものと言っても、ワイダニット(略)に言及さえしなければ、十戒も二十則も九命題も守っていないのには目を瞑れたのに。余計なことをしやがったなと言う感じ。
 発売を待って買ったのではなく、評判の良さで購入を決めたので、期待値が高かったというのもあるかもしれないが、がっかりした。

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